『俺達のグレートなキャンプ17 綱渡りしながらあんかけ焼きそば』

海山純平

第17話 綱渡りしながらあんかけ焼きそば

俺達のグレートなキャンプ17 綱渡りしながらあんかけ焼きそば


「おいおい、今回のキャンプはどこに行くんだ?」千葉がリュックを抱えながら尋ねた。軽快なリズムで車のトランクに荷物を詰め込みながら、期待に胸を膨らませている。

石川は地図を広げ、自信満々に指を差した。「今回は富士山の麓のキャンプ場だ!景色がすごくて、川も近いし、最高の場所なんだぜ!」彼の目は既に冒険への期待で輝いていた。

「また何か企んでるね?」富山は疑わしげな目で石川を見つめた。いつものことだ。石川が普通のキャンプをすることなど、彼女の記憶にはない。「前回の『滝に打たれながらカレーを食べる』で風邪ひいたばかりでしょ?」

「ハハハ!それも最高だったじゃないか!」石川は豪快に笑った。「カレーの辛さと滝の冷たさが絶妙のハーモニーだっただろ?」

「あなただけよ、そう思ってるの…」富山はため息をついた。

「今回の『グレートなキャンプ』のテーマは何?」千葉は興味津々で聞いた。彼にとって、石川のクレイジーなキャンプは常に新しい体験だった。

石川は両手を大きく広げて宣言した。「今回は…『綱渡りしながらあんかけ焼きそばを食べる』だ!」

「は?」富山と千葉は声を揃えた。

「あんかけ焼きそば?」千葉は目を輝かせた。「いいね!でも綱渡り?」

「そのとろ〜りしたあんかけを綱渡りしながら食べるんだぜ!命懸けのグルメってやつだ!」石川は拳を握りしめ興奮した様子で言った。

富山は頭を抱えた。「絶対に何かアクシデントが起きるわ…」


キャンプ場に到着すると、すでに何組かのキャンパーたちがテントを張っていた。週末ということもあり、家族連れやカップル、友人グループなど多くの人々で賑わっていた。

いつもの通り、彼らは目立つ場所ではなく、少し離れた木々に囲まれたスペースを選んだ。石川の奇抜なキャンプは時に周囲に迷惑をかけることもあるからだ。

「まずはテント設営と食材の準備だな!」石川は指示を出しながら、リュックから大量のロープを取り出した。

「石川さん、これ全部使うの?」千葉は目を丸くして聞いた。

「もちろん!今回の綱渡りは本格的だからな!」石川は嬉しそうに答えた。「ロープ術は俺の得意分野だぜ!」

「そういえば前は登山部だったんだっけ?」千葉は感心した様子で言った。

富山はため息をついた。「怪我だけはしないでよ。特にあんかけは熱いんだから、火傷したら大変よ」

「心配するな!すべては計算済みだ!」石川は胸を張った。

彼らは効率よくテントを設営し、石川の指示のもと、2本の頑丈な木の間にロープを張り巡らせた。地面から約1メートルの高さ。転んでも大怪我はしなさそうな高さだった。

「よーし、準備OK!」石川は満足気に手をたたいた。「次はあんかけ焼きそばの準備だ!」

石川は大きな鍋を取り出し、材料を並べ始めた。豚肉、キャベツ、ニンジン、もやし、そして特製の調味料。「今回のあんかけは特別だからな!とろみがあって、でもダラダラこぼれない絶妙な硬さを目指すぜ!」

千葉は調理器具を並べ始めた。「石川、本当に綱渡りしながら食べるの?熱いあんかけ焼きそばを?」

「そのスリルがたまらないんだよ!」石川は笑った。「命懸けのディナーってわけだ!」

富山は頭を抱えた。「正気?火傷するよ!」

「大丈夫、大丈夫!」石川は富山の肩をポンと叩いた。「俺達のグレートなキャンプは、常に安全第一だぜ!」

「どこが…」富山は呟いた。


夕方になり、キャンプファイヤーに火が灯された。周囲のキャンパーたちもそれぞれ夕食の準備を始めていた。辺りには様々な料理の香りが漂い始め、空腹を刺激する。

「うわ〜!いい匂い!」千葉は隣のキャンプサイトから漂ってくるバーベキューの香りに反応した。「みんな美味しそうなもの食べてるね!」

「我々のあんかけ焼きそばも負けてないぜ!」石川はフライパンで野菜を炒め、焼きそばを調理し始めた。香ばしい匂いが辺りに広がる。

「あんかけのとろみが命だからな!」石川は真剣な表情で水溶き片栗粉を加えていく。「熱々で、でもこぼれない絶妙な粘度を目指すぜ!」

周囲のキャンパーが彼らの様子を気にし始めていた。特に、ロープが張られている光景は明らかに異質だった。

「あの、何をしてるんですか?」隣のテントのキャンパーが好奇心から声をかけてきた。20代半ばくらいの男性で、彼も友人たちとキャンプに来ているようだった。

石川は満面の笑みで答えた。「俺達は『綱渡りしながらあんかけ焼きそばを食べる』挑戦をしてるんです!見たことないでしょ?」

「見たことないし、聞いたこともないです…」相手は困惑した表情を浮かべた。

「それが『グレートなキャンプ』の醍醐味なんですよ!」石川は誇らしげに答えた。「よかったら一緒にどうですか?」

「えっ、いや、見てるだけで…」男性は戸惑いながらも、興味深そうに彼らの準備を見守っていた。

富山は恥ずかしさに耐えながら、あんかけ焼きそばを皿に盛り付けていた。「本当にやるの?」

「もちろん!約束は約束だ!」石川はロープの前に立ち、皿を手に取った。

石川の作ったあんかけ焼きそばは見事だった。黄金色の麺の上に、とろりとしたあんかけが絡み、具材も彩り豊かだ。スマホを取り出した千葉が思わず写真を撮った。

「うわ〜!これは絶対SNS映えするよ!」千葉は興奮気味に言った。「ハッシュタグ『#飯テロ』『#グレートキャンプ』『#綱渡り焼きそば』っと…」

「おいおい、まだ食べてもないのに投稿するのか?」石川は笑いながら言った。

「だって、このビジュアル最高じゃん!」千葉はカメラアングルを変えながら何枚も撮影していた。


「いよいよ、『グレートなキャンプ17』のハイライト!綱渡りあんかけ焼きそばチャレンジの開始だ!」石川は大声で宣言した。

すでに周囲のキャンパーたちが集まり始めていた。最初は呆れた表情だったが、石川のはじけるテンションに引き込まれ、次第に応援ムードになってきていた。

「大丈夫かな?」千葉は少し心配そうだった。

「心配ないよ!」石川は熱々のあんかけ焼きそばの皿を持ち、ロープに足をかけた。「これが俺のグレートなキャンプスタイルだ!」

石川はゆっくりとロープの上に立ち、バランスを取りながら一歩踏み出した。あんかけ焼きそばから湯気が立ち上り、彼の顔を照らしていた。

「お、おい…マジでやるんだな」周りのキャンパーたちから声が上がった。

石川は慎重に一歩ずつ進みながら、箸であんかけ焼きそばをすくい上げた。「いただきます!」

彼は口にそれを運び、「うまっ!」と声を上げた。バランスを崩しかけたが、すぐに体制を立て直す。

「石川!気をつけて!」富山が叫んだ。

観客は息を飲んで見守っていた。石川は一歩、また一歩と進みながら、焼きそばを口に運んでいく。

「これが…グレートなキャンプの真髄だ!」彼は口いっぱいに焼きそばを頬張りながら宣言した。

しかし、その瞬間だった。

石川が箸で大きくあんかけ焼きそばをすくい上げた時、バランスを崩した。「わっ!」

彼が必死に体勢を立て直そうとした時、皿が傾き、熱々のあんかけが彼の頭上から流れ落ちた。

「うわぁっ!熱っ!」石川の悲鳴が響き渡った。

あんかけは彼の頭から顔、そして首筋を伝って服の中へと流れ込んでいく。

富山は目を見開いて叫んだ。「ほら見なさい!言ったでしょ!」

千葉は慌てて水の入ったバケツを持ってきた。「石川!大丈夫か?火傷しない?」

石川はロープから飛び降り、あんかけまみれになりながらも笑っていた。「ハハハ!最高だ!これぞ本物の『あんかけ体験』だ!」

周囲のキャンパーたちからは笑い声と拍手が起こった。思わぬハプニングに場が盛り上がる。

千葉はこの瞬間も逃さずスマホで撮影していた。「これは絶対バズるよ!『#あんかけ被り』『#キャンプ失敗』『#それでも笑顔』っと…」

「おい千葉!撮影よりも手伝え!」富山は叫んだが、彼女自身も笑いを堪えるのに必死だった。


「次は俺の番だ!」突然、一人のキャンパーが手を挙げた。先ほど彼らに声をかけてきた男性だった。

「え?」石川はあんかけを拭き取りながら驚いた顔で振り返った。

「そのチャレンジ、面白そうだ!僕もやらせてもらえますか?」男性は本気の表情で言った。

石川の顔が輝いた。「もちろん!グレートなキャンプは皆のものだ!」

富山は目を丸くした。「え?待って、それは…」

しかし、次々と挑戦者が現れ始めた。あんかけ焼きそばも、石川たちが準備していた分量を大幅に超えて作ることになった。

「俺の出番だな!」千葉は大鍋を取り出し、追加の焼きそばの用意を始めた。「これぞ『一緒にやれば楽しくなる』だよ!」

キャンプ場は突如として「綱渡りあんかけ焼きそば大会」の会場と化していた。

しかし、次の挑戦者もまた運悪くバランスを崩し、あんかけを被ってしまう。「うわっ!熱い!」

それを見た富山は急いでタオルと水を持って駆けつけた。「大丈夫ですか?火傷してませんか?」

「いえ、大丈夫です!むしろ…面白かった!」その男性は笑いながら答えた。

次々と挑戦者が現れ、成功する者もいれば、あんかけを被る者も続出。しかし不思議なことに、誰も怒ったり文句を言ったりはしない。むしろ、あんかけを被った者同士で「あんかけブラザーズ」と名乗り始める始末だ。

「順番に並んでください!」石川はMC気取りで叫んだ。「今夜のグレートなキャンプ特別イベントへようこそ!」

富山は呆れながらも、次々と皿に焼きそばを盛り付けていく。「まさか巻き込まれるとは…」


日が落ち、キャンプファイヤーの炎が彼らの奇妙なチャレンジを照らしていた。

「次の挑戦者!」石川は声を張り上げた。

子供連れの家族も興味津々で見守っていた。子供たちは歓声を上げ、大人たちも次第に笑顔になっていく。

「パパ!あれやりたい!」小さな男の子が父親の袖を引っ張った。

「だめだよ、危ないから」と言いながらも、その父親は石川たちの様子を楽しげに見ていた。

キャンプ場の管理人までもが様子を見に来て、最初は困惑していたが、誰も重傷を負っていないことを確認すると安心したようだった。

「みなさん、安全第一でお願いします」と一言だけ言って立ち去った。

しかし、その直後、新たな事態が発生した。千葉のスマホへの投稿を見た近隣のキャンパーたちが、次々とキャンプ場に集まってきたのだ。

「あの『#飯テロ』『#綱渡り焼きそば』を見てきました!」

「『#あんかけ被り』が面白くて、すぐに来ちゃいました!」

富山は唖然とした。「まさか…SNSで拡散されてるの?」

千葉はスマホを確認して目を丸くした。「うわっ!いいね数がエグい!もう5000超えてる!」

石川は喜びの声を上げた。「これこそグレートなキャンプの力だ!みんなを笑顔にする力!」

そして彼は新たに到着した人々に向かって叫んだ。「みんな、歓迎するぜ!グレートなキャンプへようこそ!」


夜も更けていく中、チャレンジはますます盛り上がっていた。あんかけ焼きそばはすでに数回追加で作られ、周囲のキャンパーたちも材料を持ち寄って協力し始めていた。

「俺、もう5回目だぜ!」ある若いキャンパーが誇らしげに言った。「今回こそあんかけまみれにならずに完食するぞ!」

「私なんて、片手でバランス取りながら行けたわよ!」年配の女性までもが挑戦していた。彼女は見事に完食し、拍手喝采を浴びていた。

一方で、「あんかけブラザーズ」は10人以上に増えていた。彼らはあんかけを被った経験を笑いながら語り合い、まるで勲章のように誇っていた。

「やっぱりアクシデントも含めて楽しめるのが最高だよな!」石川は嬉しそうに言った。

富山は夜空を見上げてため息をついた。「またやってしまったね、石川…でも、確かに皆楽しそう」

石川は彼女の隣に座り、満足げに微笑んだ。「これが俺達のグレートなキャンプだろ?」

千葉はあんかけ焼きそばの残りを皿に盛りながら、「最高に楽しいキャンプだよ!」と笑顔で言った。「見て、今『#グレートキャンプ』がトレンド入りしてる!」

夜遅くまで続いた「綱渡りあんかけ焼きそば大会」は、翌日のキャンプ場の伝説となった。いくつかの軽い火傷と無数のあんかけ被りがあったものの、不思議と全員が笑顔で過ごした一夜だった。


翌朝、彼らがテントを片付けていると、次々とキャンパーたちが挨拶に来た。

「昨日は最高に楽しかったです!」

「あんかけブラザーズ、これからも活動続けますよ!」

「また次回も変わったことやるんですか?」

石川は胸を張った。「もちろん!俺達のグレートなキャンプは常に進化するからな!」

富山は呆れながらも、微笑んでいた。「次は何を考えてるの?」

石川は意味深な笑みを浮かべた。「次回のグレートなキャンプは…」

千葉と富山は身を乗り出して聞いた。

「『川下りしながらバーベキュー』だ!」

「それはさすがに無理でしょ!」富山は叫んだ。「絶対溺れるわよ!」

千葉は興奮した表情で「面白そう!」と即答した。「『#川下りBBQ』って投稿したら、絶対バズるね!」

周りのキャンパーたちは次々と連絡先を交換し始め、「次回も参加したい!」と声を上げていた。

「あんかけブラザーズとして、次回も参加させてください!」と昨夜あんかけを被った男性たちが石川にお願いしていた。

石川は満面の笑みで彼らの肩を叩いた。「もちろんだ!次は『川下りBBQブラザーズ』の誕生だな!」

富山はその様子を見ながら、あきれ顔で呟いた。「どこまで行くつもりなのかしら…」

千葉は彼女の肩に手を置いた。「でも、楽しいでしょ?」

富山は小さく微笑んだ。「まあ…否定はしないわ」


キャンプ場を後にする車の中で、石川は後部座席でスマホを見ながら声を上げた。

「おい!見てみろよ!俺たちのあんかけ焼きそば綱渡りが全国ニュースになってる!」

「えっ!」千葉と富山は驚いた声を上げた。

画面には「キャンプ場で奇妙なグルメチャレンジが大流行」というタイトルと共に、あんかけまみれになった石川の写真が映っていた。

「いやー、グレートなキャンプもついに全国区だな!」石川は誇らしげに言った。

富山は頭を抱えた。「これからどんどん人が増えちゃうわね…」

「それこそがグレートなキャンプの素晴らしさだろ!」石川は笑った。

千葉はSNSのフォロワー数を確認して目を見開いた。「うわ!フォロワー1万人超えた!みんな次のグレートなキャンプを楽しみにしてるよ!」

石川は満足げに窓の外を見つめた。「次回はもっとすごいグレートなキャンプにするぜ!」

富山は諦めたような、でも少し楽しげな表情で呟いた。「どうせ止められないなら…付き合うしかないわね」

こうして、彼らの「グレートなキャンプ」はまた新たな仲間を増やしながら、次なる奇抜な冒険へと続いていくのだった。

そして石川のスマホには、既に「川下りBBQ」の準備リストと共に、「次はスカイダイビングしながらそうめん流し」というメモが残されていた。

(おわり)

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『俺達のグレートなキャンプ17 綱渡りしながらあんかけ焼きそば』 海山純平 @umiyama117

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