第2話 下校と写真と匿名で

 文芸部の部員は各学年男女で二人ずつ。これは簡単に言って俺たちの人付き合いのレベルの低さを提示するものだ。去年、今年と一人くらいは後輩をということでどうにかして探し出した一人ずつ。


 現在の部員は6人。完全に廃部ギリギリでの活動である。一応皆んな来て本を読んでは帰っているが。会話が無い。ちゃんと挨拶はするし話しかければ返してくれるしいい後輩だとは思うんだけど……。O字型に配置された机。勿論入口から見て一番奥に佇むのがこの部長である。


 そして今日もまた平和でそのうえ会話が無い。読書には静寂がもってこいであるのだが、部活動であるということもあり後輩との関わりは是非とも大切にさせていただきたいものなのだけれど。


「あ、先輩……」

 が、珍しいことに今日は向こうから話しかけに来てくれた訳だ。

 ショートヘアーを切りそろえた髪色と同じくして明るそうな少女。何故かその左手に持つスマホを視界に入れた俺は嫌な予感を感じる。

「どうしたんだい?」

「いえ、昨日こんな写真が送られてきまして」

 二言目で早くも嫌な予感が的中してしまった。四季花しきはな傘音かさねは左斜め前の席に座る雪風に仕込まれたかの様な笑顔で。彼女のスマホの画面に映るのはやはり俺、いや俺自身のドッペルゲンガーの様な存在。髪を後ろでまとめた目付きの”少し”悪い学生。黒いジャケットを着込んで隣には紫髪の美少女が居る。


「せんぱ〜い。彼女出来たなら教えてくれたっていいじゃないですか〜」

「いや、それは俺じゃない」

「いやでも」

「いや俺じゃない。ソイツは赤の他人だ」

「ほんとうn」「というかその写真誰からだ?俺じゃないが。誰から送られてきた?」

 思わず顔をぐいと近づけて彼女の誤解を解くべく努力する。俺は真剣だ。必死に否定する。

「それが……メールで匿名から」

 すると彼女は一歩引き下がりそんな事を言ったのであった。


「手掛かりナシか……。まあいい、俺に彼女が出来たらもっと大々的に騒いでいいぞ」


「は、は〜い」


 苦笑いで席に戻られた。それでも何処か嬉しそうな顔をしているようで、何が良かったのかは分からないが、匿名で俺のそっくりさん、暫定的にはドッペルゲンガーの写真を周囲の人間に送りつけるとはとんだ変態もいたものである。



──そして帰宅中の話


 門の前を通り過ぎたところで背後から何者かに襲われる。

「どりゃー!!」

 陵悟である。カバンを振り回してきやがった。普通に危ない……。


「ったく今日もよう本を読むなあお前は」

 手を頭の後ろで組んだ彼は適当なステップで俺の先を歩き回る。

「まあ、趣味だからね」

 彼の顧問が真面目なテニス部は休憩時間を取りつつも最終下校時刻までやる熱血指導である。

「まあ今日はずっと調べ物をしてたんだけどね」

「そうだねえ、珍しく本を読んでいないと思ったら早速あのこと調べちゃって」

 またも背後から何者かに声をかけられる。雪風であった……。

「うっわ!!!」✕2

 俺と陵悟が驚くと両手に腰をあてて眼鏡を掛け直し街灯の下でニヤリと笑う。無駄な行動が本当に多いヤツだ。


「全くぅ、折角この美人が一緒に帰ろうと声を掛けたのにバケモノでも見たようなコを出すとはどういうことだねぇ?」


「いやいやいやいや普通にバケモノだろお前」

 そんな事を言ったのは俺ではなく陵悟であった。自分も同感ながらも口が悪いと思ってしまったが、それと同じくらいに彼女がバケモノでないことの否定はし難い。


「さてさ……」

 彼女はやりたい事が済んだのか何か話し始めようとした瞬間に血相を変えて「早く左曲がって!!!」と大きな声を出す。あまりにも急な発言ではあったものの俺達は彼女に引っ張られて住宅街の角を曲がる。


 そしてそのまま近くの公園へ。小学生の頃よく3人で遊んだブランコとすべり台、砂場の3点セットの揃った公園。


「はぁ、はぁ……。キミたちぃ、私に感謝した方が……いいと思うよ……」

 彼女は白いベンチに座り込むなり息を鳴らしながら此方を見る。眼鏡の奥から見える目はまるで死地を潜り抜けた直後の人間のそれであった。


「……ってことは。出たんだね」

「まったくその通りだよ部長様」

 俺たちの会話がの実態を掴めずにいる陵悟は何やら困惑した表情で自身のラケットで手遊びをする。


「なに、幽霊でも出たのか?最近うちは幽霊部員なら増えてるが」

「ああ、そうみたいだね。ってそういう事ではなく!!」

 運動不足の彼女にはこたえたのか、数分経ってどうにか呼吸を整えた彼女は言った。

「ドッペルゲンガーが出た」


「ロックンロールなギター?」

 惚けた顔の陵悟から出たセリフに思わず俺は吹き出してしまう。だが、普段は真面目から掛け離れている存在である雪風が真剣な眼差しで陵悟に起こった出来事を伝える。

「ちg違う、会ったら死ぬ人間が出たっていう事だよ!!!」

「は?マジでぇ!?いつの間にお前仲間呼ぶ様になったんだよぉ!!!」

「はぁ?私が呼んだんじゃないわ!!!というか確率的にはアンタが呼んだって言った方が筋が通るわ!あとさっさと感謝しろ!!」


 またも大声で話したせいかまたも息切れを起こした彼女は座り込んで溜息を吐く。間一髪と言ったところなのだろう。まさか、本当に目の前に現れるとはな……。実際に出会った死んだ人間なんてものとは未だ出会ったことなんて無いのだが、そんな危険な存在には遭遇しない限ると言ったものだ。何より目撃情報があるのは陵悟だけではない、そうかく言う俺自身も例外ではないのだから──

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