暮れの獣と機密剣《シークレットソード》

団栗珈琲。

序 章 運命的な邂逅

Prologue 邂逅

「HEY! 御主人様! わたしを使ってくださいよぅ」

 久條はおよそ槍から放たれたとは思えない声に、目を見開いていた。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 蒼槍あおやり 久條くじょうは過去のことを思い出していた。

 友だちと遊んで別れた帰り道。ふと動く影のようなものを見て、引き込まれるように影を追いかけた。

 まるで、なにかに導かれたように。

 すると、巨大な化け物が僕の目の前に現れ、血相を変えたように追いかけてきた。


 剛烈な破壊音がなる。低く思い重低音が辺りに響き、岩は砕ける。

 それは、悪夢のようだった。


「ああああああああ―――!」

 久條は叫ぶ。目の前にいるのは界獣と呼ばれるものだ。

 その界獣に怯え、久條はただ絶望し叫ぶことしか出来なかった。


 久條は人生の終わりを迎えるのだとそう悟り、痛みを感じないよう。恐怖をできる限り緩めようと、目を瞑った。

 大きい衝撃音。自分に痛覚が襲いかかるのかと思い、身を引き締めたのだが、いつまで経っても痛みが全身を襲うことはなかった。もう気のつかない間に首が飛ばされ、痛覚を感じる前に殺されたかのかと思い、目を開いてそうではないということに気がついた。

 目を開くとそこには日本刀を携えた女性が立っていた。

 女性は僕に向き直ると、

「大丈夫かい?」と微笑んだ。

 それに続くように刀も「大丈夫?」と声を上げた。

 なにが起こったのか理解するのに数十秒掛かった。

 奥の方へと目を向けると、首のない界獣がそこにはいた。


 女性の日本刀に目を向けると、明らか人間のものではない青い血が付着していた。刀を無造作に振ると、青い血が飛んでいく。

 僕はただ呆然としてそれを見つめる他なかった。圧倒的な力で巨大な化け物をねじ伏せた。


 女性はこちらに微笑みかけると、「きみ、ちょっとまっててね」と、そう声をかけられた。

 暫く待っていると、なにか特殊な宝石のようなものを手にはめた彼女がこちらへと向かってくる。


 すると、彼女が久條の頭の上に宝石を翳すようにして手を置いた。

 刹那、頭部が淡い光で包まれた。

 僕はなにが起こったのかわからずに、あたりを見回す。

 なにも変わっていない。女性は困ったように苦笑いを浮かべながら、頬を掻く。


「ははは……。困ったな。きみがまさか魔法耐性があるとは。―――少なくとも洗脳系の魔法にはかからない」

「こんな子、珍しいね。迷い込んでくる子も少ないのに」

「そうだね。更に魔法適性まであるとなるとびっくりだ。まさかここまで素質のある子が表側にいるなんて」

 と、刀と女性が意味のわからない会話を続ける。


「あの、名前はなんというんですか?」

 久條がしびれを切らして、彼女にそう問いかける。彼女は「――ああ、悪かったね。すぐに終わると思ってたんだ」と笑いながら、自分の名前は夜姫やひめであるということを告げた。刀が自分の名前は「ともしび」であると訊いてもいないのにそう言ってきた。


「さて、しょうがないな。こんなこ、前例がないし一体どうすれば……」

「とりあえず、特務室に持っていったほうがいいと思うけどね」

「私、特務室なんて使ったこと無いや。政府の司令部の地下二階だっけ?」

「僕に聞かないでよ……」

「まあ、私についてきなよ少年」

 そう言って夜姫は笑った。

「俺の名前は久條です。それに十六です少年ではありません」と、文句を言うように久條は言い返した。

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