電波系幼馴染と終末世界
@geiyu
ファーストキス
「外にはね、霊体拡散電波がこう、ヌメヌメって漂っているの」
そう、
小さな両手を体の前に置いて、手のひらをこちらに向けると、細い指をイソギンチャクのように曲げて動かしている。
「その電波にね。もし共鳴しちゃったら
今度は両手を前に伸ばして、おそらくゾンビのマネをする。
ただ、まっすぐ伸ばされた腕はあまりゾンビらしくない。どちらかと言えばキョンシーだ。
日に焼けた形跡のない青白い肌を見て、余計にそう思えた。
「なるほど…それで、この部屋を覆うアルミホイルは何だ?」
俺は光の自室を見渡した。
1人部屋にしては広い十畳ほどの彼女の部屋は、壁と天井を銀色のアルミホイルで覆っている。窓には見られないが、よく見ればカーテンの裏にも隙間なくびっしりと張りつけられていた。
「アルミホイルは電波を遮断するの。スマホをアルミホイルで包んでみて。圏外になるから」
俺は何を言えば良いのか分からなかったけど、取りあえず「そうか。博識だ」と返す。
光は嬉しそうに目を細めた。破顔した光は、生まれてからずっと見てきた笑顔と同じで不思議な気持ちになる。
そんなこと無いと分かっていても、心のどこかでは『ドッキリでした~全部嘘で~す』と言ってくれないかと祈る自分がいた。不安が顔に出てしまっていたのか、光が突然抱き着いてくる。
甘ったるい女の子の匂いが鼻腔をくすぐり、柔らかい感触が上半身に触れた。
思わず息を止めそうになった。鼻や口から排出される息を光にかけたくない。
「大丈夫だよ、怖がらないで。
弱い力で抱きしめられながら、耳元で光がそう囁いた。
声と共に漏れた小さな吐息が耳をくすぐって、体がビクッと震える。
少し伸びた自分の腕の置き場所に困り、宙に浮かせたまま固まってしまった。
恥ずかしいとか、ひんやりしてるとか、いい匂いとか、いろいろな情報がビビンバみたいに掻き混ざって折り合いが付かなくなっていたが、気が付けば光の体が離れていた。顔が真っ赤になっているだろう俺と対照的に、光はいつもと変わらなぬ雪肌に微笑を伴わせて口を開いた。
「霊体拡散電波への抵抗力を上げる儀式があるの。今から、してあげる」
光の顔が近づいた。
大きな目や、すらりと通った鼻筋がよく見えて、『このままだとぶつかるんじゃないか』と心配になったが、光は止まることなく唇を俺の口にくっつけた。
俺はその日、初めて女の子とキスをした。
黙々と黒板を白い文字で埋める先生の背中をぼんやりと眺めていた。
薄い青色のラインが入った白シャツの袖を、肘あたりまでまで捲り上げている腕が止まる。持っていたチョークを置いてこちらに振り返ると、さっき書き終えた計算式の解説が始まった。そう言えば先生はチョーク汚れをどうしているんだろう。掃除の時間でに黒板消しを叩いて染み込んだチョークの粉を落としていた時、うっかり制服のズボンを汚してしまった。叩いても落ちないし、濡らしたハンカチで拭いても取れない。結局そのまま家に帰ると、母親に「洗濯機かけても落ちにくいのに」小言を言われてしまった。
「じゃあ次の問題は…
何度も耳にした響きに反応して、ぼうっとしていた意識が張りつめる。
「……はい」
反射的に返事を返し、黒板の文字にピントを合わせる。解が空欄の数式が一つだけ残っている。だが、困ったことに全く分からない。
「どうした?分からないか?ったく、授業中にぼ~っとするから」
あぁ、面倒なことが始まったと思っていたら、視界の端がヒョコヒョコと動き始めた。それは前の席に座る
「……3分の-1-2√7です」
「違う!ちゃんと話を聞かないからこうなるんだぞ。この数式の解き方はな、」
違うのかよ。前に座る相良の後ろ姿を睨むと、肩が小さく揺れ動いているのが見えた。足を延ばし、相良が座る椅子の足を軽く蹴る。
わざと嘘を教えやがったなお前。笑ってんじゃねえよ。
椅子の振動に気が付いた相良は、椅子の背もたれに後ろ手を組みピースを向けてきた。
畜生、授業終わりだ。覚えてろよ。
視線を黒板の上に設置された時計に移す。授業はまだまだ終わりそうにないようだ。
数学の授業が終わり、休み時間に入る。恨みを忘れずに持ち越していた俺は、前の席に座る相良に話しかけようとするが、その前に背後から声を掛けられた。
「
男にしては高い声がした。
振り返ると、俺の一つ後ろに座る
「寝てない。何も考えてなかっただけだ」
「ほぼ一緒だろそれ」
「全然違う。涎を口から垂らして、だらしない顔を浮かべながら「なっがいぁ坂道ぃ」って寝言を垂れることを寝るってことだ」
「俺の事弄ってきてんな、海」
あんな痴態と同類扱いされたら、誰だって反撃するだろう。
霧原第二高校に進学して最初に仲良くなった瀬尾は、入学して早々にド派手な居眠りをかまして名を馳せた。授業中の居眠りはコイツの専売特許。むしろ反撃されたくて弄ってきているのかもしれない。瀬尾は短く刈り揃われたツンツンの髪を手で馴らすと、腰を曲げ机にぐったりと倒れ込んだ。
「明日からテスト期間入るとさ……部活無くなるから、帰りどっか行かね?」
「それは良いね。僕も同行させてもらおうか」
俺が返事を返すより先に、誰かが答えた。声のした方へ…また背後に振り返る。
そこには椅子の背もたれを前から抱きしめて座る相良の姿があった。
二つに結んだおさげを揺らしながら、力の籠った眼差しをこちらに向けている。
「オッケー、相良も来るなら…じゃあ「おい相良。何パチこいてんだよ」
俺が瀬尾の言葉を遮るように問い詰めると、相良は揶揄うように白い歯を見せた。
「酷い言い方だなぁ…僕が何か一つでも嘘をついたかい?」
「否認は量刑上不利に判断されるぜ」
「よく分らないなぁ。少なくとも僕は周防に何か嘘をついた覚えはないけど」
女にしては背の高い相良と、年齢別平均身長と一ミリの誤差なく成長している俺の目線の高さは全く同じだ。弧を描く相良の目が訴えかけてくる。『勝手に答えだと勘違いしたのはお前だ』と。
「……食べ物と尊厳の恨みは高くつくぞ」
「答えを間違えただけで損なう尊厳って持ってて意味ある?」
わざとらしく心配するような表情を相良が作った。クソムカつく。
「3分の-1-2√7の事は置いといて、明日どこ行くか決めようぜ」
「誤答をちゃんと暗記してんじゃねぇよ瀬尾」
相良の目が大きく瞠る。
「3分の-1-2√7が言語を!?」
「俺は異常発達したモンキーじゃないが」
「人類言語を操る上位存在につもりだったかもよ」
「誉め言葉なのか貶してるのかを曖昧にするな」
瀬尾と相良がケラケラと笑う。そんな二人を置いて、俺は黒板の端に白いチョークで書かれた日付…その下の曜日を確認した。今日は木曜日らしい。
そして遊ぶ予定の明日は金曜日。俺にとって金曜日は特別だった。俺と光の儀式は毎週金曜日に行われる。
「悪い。明日は用事があるから……俺抜きで頼む」
「え~!……まぁいいや。他にも来れそうな奴も適当に誘って……相良もそれで良い?」
「あぁ、良いよ」
相良がこちらを訝しむようにジッと見つめてくる。先ほどまでの冗談の時とは全く違う、本能的に忌避感を覚える視線。
着衣を全て剝ぎ取られ、巨大なお皿の上に乗せられたような恐怖。……いや、考えすぎだ。よく見てみろよ、なんてことない。
「周防って…いつも金曜日に用事が入っていない?」
一瞬目線を反らしそうになり……堪える。平静を装え。別にバレた所で問題はないが……でもやっぱり知られたくない。
「女かい?」
「え、あ、ち、違う」
畜生。クソ吃った。
「へぇ……!」
「海マジ!?おめでとう、いつ?いつできた?」
感心したように微笑を浮かべる相良と、純粋な祝意を口にする瀬尾。二人の生暖かい視線は毒だ。虫眼鏡で収束させた日光みたいに、俺が脚色してきた自己像をを熱で溶かされてるような気分になる。
その時丁度チャイムが鳴り、休み時間の終わりを告げる。
「…終わりだ!席につけ、席に」
「タイミングが悪い……まぁいいや。絶対に口を割らせてやるからな」
「どこまでいったかだけでも教えてくれよ」
次の六限の授業が終われば、すぐに放課後だ。今日はともかく逃げに徹する、そう決めた。
翌日の放課後、俺は光の家の前に来ていた。光の家は二階建てのありふれた一軒家だ。
家の周りはアルミ形材の目隠しフェンスで囲まれていて、庭には背の低い芝生が敷き詰められている。
これが都会だったら大豪邸なんだろうが、あいにくこの霧原市は都会でも田舎でもない地方都市だ。きっと同じ設計でパッケージ売りをしているのだろう。この辺を巡れば同じような一軒家を至る所で見かける。
電話を掛ける。ワンコールもしない内に光の声がする。スマホ越しの声は少し低く聞こえた。
「今鍵開けるね」
電話が切れると、目の前のドアからガチャッと音がした。俺はいつも通りドアを開けて中に入る。昔は『おじゃまします』ちゃんと言っていたが最近は言わなくなった。光の両親は共働きで、夜遅くまで帰ってこない。そのため、家にはいつも光しかいない。ドアの施錠もスマホで遠隔操作だ。
光は基本的に部屋から出ない。二階へと上がり、飾り気のないシンプルな扉の前に立つ。ノックをするとすぐに声が返ってきた。
「入って」
部屋の奥から響く声は、電話越しと違って高く澄んでいる。
扉を開けると、光が灰色の大きく丸いクッションに体重を預け横になっていた。グレーのシャツとパンツのパジャマ姿の彼女が、視線だけをこちらに向けている。
いつ見ても綺麗な顔だと思った。白い頭髪に血の気を感じさせない白い肌。薄い唇、大きな黒目は灰色がかって見える。人間というよりも、もっと精霊や幽霊といった神秘的な存在に近い気がした。
「おはよう、光」
「うん、おはよう。
光は昔から俺をうみと呼ぶ。あだ名のようなものだ。まだ小さな子供だったから、きっと海を訓読みでしか知らなかったんだろう。
それが今でも続いている。
光との挨拶はいつも『おはよう』だ。基本的に放課後に会うので『おはよう』より『こんにちは』や『こんばんは』が適切だと思うが、光にとっては違うのだろう。いつも光から『おはよう』と言うので、自然と俺もそう挨拶するようになった。
鞄を床に敷き、白い起毛カーペットの上に胡坐をかいて座る。光の部屋はこれといった特徴が無い。クッションと動物を象ったぬいぐるみが多いぐらいだろう。ベッドと机と服を収納するタンスくらいだ。
「いつもごめんね。海くんに来させちゃって」
「別に良い。家から歩いてこれる距離だし」
「でも毎回は申し訳ないよ」
「気にすんな。俺は施しを受ける側だから」
俺の言葉に光がにんまりと笑って表情を崩した。眼の周りにくしゃっと皺が寄って、子供みたいな無邪気な笑顔なのに、どこか儚げに見える。
「施しなんて…そんな立派なものじゃないよ」
じゃあどう思っていつもやってくれるんだ。そう聞こうとしたけど、やっぱりやめた。
「でも光は特に抵抗力が低いんだから……無理して外出しなくていいだろ。光のおかげで俺は平気なんだし」
光はこのアルミホイルで覆われた部屋から出ない……いわゆる引きこもりだ。本人曰く、霊体拡散電波の抵抗力が弱いからだそうだ。
「うん……困ったよね。霊体マンタさえいなければ自由に外出できるのに……まぁ、元からそんなに外出は好きじゃないから、そこまでだけど」
霊体マンタってなんだっけ。響きを頼りに頭の中で反芻させると、設定を思い出した。霊体マンタは、空に浮かぶ透明なマンタのことらしい。空をゆったりと漂いながら、時折地上に向けて霊体拡散電波を発信しては、ゾンビ人間を増やしているそうだ。俺は霊体マンタを見た事がない。だって透明らしいし。でも光も見えなかったはず。あれ、じゃあなんで知ってんだっけ。
古い記憶を思い返す。
あれは確か中学三年生の冬、学校に登校しなくなった光の様子を見に行った時だ。
『ハインリヒ・ヘルツは通常の電磁波に加えて、霊体拡散電波の存在も証明していたの。でもその存在は秘匿されちゃった。何でだと思う?』
『防ぐ手段がないからだよ。人に害をなす電波が毎日降り注いているけど、何もできません。なんて言えないからね。無用な混乱を生むだけだからね』
『どうして私が知ってるかって?位相同期したの。霊体マンタの脳波と私の脳波がシンクロして、全部分かった。私が迷惑だから電波を出さないでくれる?ってお願いしたけど、彼は仕事だからゴメンねって言ったの。困るよね、そんなの』
そうだ。脳波がシンクロしたんだ。改めて考えても理解は追いつかないが、そういうものなんだと受け入れる。昔から頭が良かった光の事だ。もしかしたら、
本当に隠された真実に手が届いてしまったのかもしれない。99%そんな事は無いだろうが。
「ねぇ、学校どうだった?何かあった?」
光はクッションから体を起こし、その場に腰を下ろす。そのまま少し前かがみになった。
彼女はよく学校での出来事を聞いてくる。いつも聞かれるから、学校に居る時も自然と話せる事を探す癖がついてしまった。
「テスト期間が始まったから部活動が休みになったみたいで、友達が嬉しそうだった」
「うん」
「テスト自体は来週の金曜だからまだ一週間あるけど…本格的に高校の勉強が始まって、やっぱり難しい」
「なら、私が教えてあげなきゃだね」
「……いつも悪い」
「うふふ、もっと恐れ入ってもいいよ」
「神棚に光の写真を飾っとく」
「奉りすぎだって」
光は通信制の高校に通っている。成績は非常に良く、まだ高校一年生なのに、有名大学の入試問題も軽く解けるほどだ。昔から勉強が得意だった光には、大人数で横並びに勉強する全日制よりも、自分のペースで進められる通信制の方が合っているのだろう。俺が本来の学力よりはるかに上の、進学校である霧原第二高校に入学できたのも光のおかげだ。てっきり光も入学するものだと思って必死で勉強したのに、今ではその意味もなくなってしまったが。
会話の流れが止まって、静かな時間が流れた。ふと光の顔を見ると、灰色の瞳が俺をじっとこちらを見つめていた。
「…しよっか。今週の分」
さっきまでと違う、少しだけ低い声。その響きに呼応するように心臓が早鐘を打つ。
俺は声が裏返らないように細心の注意を払いながら「あぁ」とだけ返した。内心、焦っている事がバレてしまったら、積み重ねてきた関係が一挙に崩れるような気がしてならなかった。我ながら余りにも情けなく、卑しい。
膝立ちになって、少しずつ光との距離を詰める。互いの距離が30cmくらいまでに近づくと、光が両手を伸ばし、俺の両肩をそっと掴んだ。小さな重みが両肩にかかる。そのまま俺の体を支えにするみたいに体重がかかって、光の首が伸びて中腰になった。
柔らかい唇が俺の口と重なる。汗ひとつかかなそうなイメージとは裏腹に、光の唇はしっとりと濡れていて、驚くほど滑らかだった。
上唇が軽く食まれ、生暖かい弱い息が吹き込まれる。首筋辺りからゾクゾクとした痺れが登ってきて、心臓は激しい動悸を起こす。大きく開かれた双眸が、こちらの所作を観察するようにじっと見つめてくる。恥ずかしくて目線を少しそらすと、視界の端で光の目が糸のように細まった。笑っているのだろうか。しかし灰色の瞳はどこか濁って見えた。
反応してしまわないように視線を逸らし、必死で別の事を考えていると、光の舌が口内に挿入される。口内を動き回る舌が、ジッとしている俺の舌と絡み合い、表面を舐る。肩を掴む光の力が強くなって、その顔が艶めかしく揺れた。
舌が離れたと思えば、今度は歯の裏側をなぞるように蠢き、人工呼吸をするみたいに息を吹き込んで切る。鼻息が荒くならないように、出来るだけ弱く鼻から息を吐き出すが、到底間に合わない。息苦しさに耐えていると、光が「ぷはぁっ」と声を漏らして唇を離した。光も息が苦しかったのか、肩を上下させ荒々しく呼吸をする。俺も同じだ。口から息を吐いて、なんとか呼吸を整える。白い不健康な肌がうっすらと紅潮して見えた。それだけ息が苦しかったんだろう。
互いの呼吸が整っても、俺達は言葉を交わさず、互いにじっと見つめ合っていた。この沈黙の時間が苦手だ。いつも、何を話したらいいのか分からず、ただ黙ってしまう。30秒か1分か、多分それくらいしてから光が口を開いた。
「これで一週間くらいは抵抗力が強まるから、また来週だね」
儀式は週に一回だと決まっている。光から欲しいと言われたスイーツを持ってきた時とか、勉強を教えて貰いに家に訪れるがそれなりにあるが、やはり儀式は週に一回だけだ。
「……いつも悪い」
俺がそう言うと、光は目線を下げて「…気にしないで。海くんがゾンビ人間になったら嫌だもん」と平然と答える。俺にはその言葉が線引きのように思えた。
俺は光の献身を、病気を、性的に搾取している。本来ならもっと早く治療するべき錯乱を、欲望を満たすために利用している。この儀式を…異性とのキスが忘れられなくて、中学から続けていた部活も高校では辞めて……我ながら必死過ぎて気持ちが悪い。
それでも彼女の元に足繁く通うのは、俺がこの先を求めてしまっているからだ。
彼女にとっては献身でしかない事は分かっているのに、俺が抱えるおぞましい欲望を彼女は欠片も持っていないと言うのに。
「最近読んだ本があるの。SFの本でね、星が寿命を迎えると同時に全人類が走馬灯を見るっていう展開があってね」
「あぁ」
「海くんも読んでよ。貸してあげるから。感想教えて」
「……できればネタバレしないで欲しかったけど、読むわ」
「……あ、ごめん」
俺はこの時間をいつまで続けてしまうのだろうか。
陽が落ちて、夕方と夜の境目くらいの時間に光の家を出た。紺色の空の端っこで、沈みかけの太陽が赤く燃えている。光の家から俺の家まで徒歩5分ほどだ。
何となく道路に転がる小さな石を蹴っ飛ばしながら帰路につく。
昼間よりは幾分マシになったが、それでも外は暑い。来週のテストが終わると夏休みが始まる。そうなれば、光と一緒に居る時間も増えるかもしれない。
「……何考えてんだよ、アイツ」
つい、声に出してしまう。光の考えている事が全く分からない。
電波もゾンビ人間もなにもかも。いくら儀式だとしても、あんな簡単に異性とキスするものだろうか。
光は昔から変わっていたが、今ほどじゃない。勉強は出来るけど、ちょっと天然な普通の女の子だったのに、それが今では町一番の変人だ。光の両親が温和だったから通信教育で済んでるが、もし厳しい親だったら入院の可能性もあったろう。
「……は?」
蹴り飛ばした小石が、ガードレールの下を抜けて、川の斜面を転がってポチャンと水音を経てた。視界の先はT字路になっている。奥には川が広がって、川に沿うように左右に道路が広がっている。
本来ならこの道の先に川を横断する橋があったはずだった。何度も通ってきた道。普通であれば道を間違えたりなんかしない。辺りを見渡せば、少し離れたところに川を横断する橋が見えた。石を蹴るのに夢中で道を間違えてしまったのだろうと、自分を納得させる。辺りは薄暗い。こういう事もたまにはあるのだろう。
それでも、小さな違和感が心にひっかかっていた。
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