サクラ:罪過ノ声編

罪過ノ声 その1

 ボクは高校に通う気何て全くなかった。中学卒業前に高校の勉強まで終っていたし高校に魅力何てなかったしね。どうせだし海外の大学にでも行こうかとか思ってたんだけど中学卒業間近という時に転機となる出来事があったんだ。 

 まあ、簡単に言えば呪われたんだよ。ボクの才能に嫉妬した人たちによってね。



 ***


 朝目を覚ましたときから気分が悪かった。食べた朝食の味も感じないくらいだったし今日は休むかとも考えたけど今日だけは出なければならない理由がある。

 ……いや、味がしなかったのは気分の問題じゃないかも。朝から妙な感覚はあった。おの女が何か仕込んだかも、なんて嫌な予感が頭をよぎる。

 ボクは起こった事を気にやんでも仕方ないと切り替えて黎明学園の制服を着て家を出ることにする。いつもの通学路を通り抜けて黎明学園の敷地に足を踏み入れる。

 ここに来るのは久しぶりかな。ヒロトと会うのは最近は学園街の方だしヒロトが見てくれるからボクが行く必要もないわけだから。

 ボクは教室に向かう生徒に紛れて1年生の教室の前までやって来る。教室の中を覗くとヒロトの姿があった。

 うん、このまま入ってくと確実に目立つよね。それは立場的にあまりよろしくないかな。となるとメッセージを託そう。


「ねえ、ねえ、そこの君、ちょっといいかな」


 ボクは教室に入りそうな生徒を捕まえて声をかける。声をかけられた男子生徒は不思議そうにボクの方を見る。知らない先輩に声を掛けられたらそんな顔にもなるよね。


「これを窓際最後尾の彼に渡してくれないかな?」

「……どうせなら呼んできましょうか?」

「ああ、いいよ、いいよ。手紙の内容がそもそも呼び出すためのものだから。それじゃあお願いね」


 ボクはあらかじめ用意していた手紙を彼に渡して教室から離れる。名前は書いてないけど桜の花のシールで封をしておいたので彼なら気づいてくれるだろう。

 呼び出したのがお昼だからそれまで暇だね。授業は受けないのかって? 残念ボクはどこのクラスにも所属してないから居場所はないんだよ。

 どうせだし学園長の顔でも見てこようかな。授業時間に校内ぶらぶらするのもよくないしね。

 そう思って学園長室に来たけど目的の相手は留守だった。いないならいないで好都合だね。ちなみに鍵は掛かっていたので開けて入ったよ。緊急時の為に鍵は預かっているのさ。

 昼休みになるまで学園長室を物色したりして過ごしたけど黎明学園の学園長は戻っては来なかった。

 まあいいっか。本命はヒロトの方だし。物色してたのがバレると後々面倒なので記憶の通りに物の位置を戻してが室を出て鍵をかける。 

 早めに学食に行って待っているとしよう。今日は特別だから普段は頼まないメニューをオーダーして角の席でヒロトが来るのを待つ。


「どうも、ヒロト。待っていたよ」

「うん。学園に来るなんて珍しいけど何かあった?」


 この子はほんとなんというか。ボクのことを責めてもおかしくないというのにそれどころがボクが謝罪のために来たなんて少しも考えていないんだから。


「ほら、黒白の件あったでしょ。それでどうしてるかなってね。ボクのせいで怒られたんでしょ?」

「サクラさんのせいじゃない。僕が勝手に勘違いして説明を省いただけだから。今回は怒られただけで済んだしさ」


 責めてくれた方がこちらとしても楽だというのに。以前のときもそうだ。


「それはそうとサクラさんってその定食好なのか? 平然と食べていて正直ビックリしてるんだけど」


 現在ボクが食べているのは安くて栄養バランスがよく、コスパがいい以外に何のとりえもない激マズ定食だ。金がなくてそれしか食えるものがないなら昼を抜きにした方がましというほんとに貧窮した者が食べる餌というのが万人の評価だろうね。

 実際ボクもこれを食うのは初めてだし。


「これは気にしなくていいよ。今のボクは何食べても一緒ってだけだから」

「へ?」


 ヒロトはボクが何を言いたいのかわからないという顔をしている。それは当然かな。普通は思わないだろう。今のボクが何の味も感じなくなっているなんて。「狂舌くるいじた」味覚をあべこべにする怪異だったかな。今朝あのツクヨミイカレおんなに貰ったプレゼント。今回は私用に調整された特別品みたい。

 ホントボクの都合とか考えないんだからさ。ボクの所為で誰かが怪異漬けになるのを見たくはないんだよ。痛い目をみれば誰だって警戒するようになるからね。

 つまりはボクはああなることを見込んでた。あの人が取り返しがつかなくなる前にどうにかしてくれるだろうことはわかってたしね。信頼と言えばそうだね。信用はできなけど。


「それより学園都市での生活には慣れたかい?」

「まあ、そうだな。勉強もバイトの方もなんとかって感じだよ。これのおかげか怪異そっちの方でも悩まされることはなくなったし」


 ヒロトはそう言って首にかけたペンダントを制服の中から引っ張り出した。それはツクヨミがあの事件の後に送ったお守りのペンダントだ。

 ボクにとっては面白くもない出来事を思い起こさせる物でもある。


「それはよかったね。あの時より強くなったようでよかったよ」


 ボクは定食が食べ終わったのでそろそろお暇することにして立ち上がった。


「そろそろボクは失礼するよ。君は元気みたいだからね」

「ああ、うん。それじゃあ今度」


 ボクがそれなりに忙しくしているのを知っているのでいつもこっちが切り上げるとヒロトは普通にそれを受け入れてくれる。

 最初の頃はおどおどしていたが今では対等な感じで話せているのでこういう面でも成長したなと思う。いや、一体ボクは何を懐かしんでいるのか。

 これも全部ツクヨミが変な呪いをかけたせいだよ。今夜辺り、ヒロトがいない時間にツクヨミのところに殴り込みに行かないと。ボクは学食を後にしながらそう決めた。

 それまでは過去のことを思い出すのも仕方ない。だからもう少しだけ過去に浸ることを


――許してほしい。



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