レスティア帝国物語。~天才姫が愛を知るまで。~

みーちゃん。

ソフィアと学園と始まりと。

レスティア帝国。西部の中央に属する大国で貿易や外交との交流も盛んだ。魔法に特化した国でほとんどの国民は魔法を使用して生活を送っている。不便こそないものの、魔法同士の属性からなる対立や複合は絶えない。

そして、我が帝国には何人もの令嬢からなる王女候補が存在する。彼女らは現国王から任命され、王女に相応しい存在になるため日々努力を怠らない。第一、第二、第三…。複数の王女候補から一人が選ばれ、選ばれた王女候補の者には精霊の加護と王子の寵愛を受けとることができる。対象は社交界デビューを果たした者のみ。

今のところ、王女候補者は約7名いると言う。

その内の2人はわずか12歳で社交界デビューを果たした史上最年少の双子らしい。

そしてもう一人、特殊な、というか、少し変わった姫がいた。彼女は誰の王女候補とも交流せず、人を信じない孤高の姫と噂されている。姿を誰も見たことなく、ある人は「老婆の姿だった。」ある人は「蝶々の姿をしていた。」と証言した。

そんな彼女は今日もまた、色々な事件や日常を遠巻きに、時に事件に関わりながら眺めているーーー。

02 

「…学園に潜入だと?」

小さな屋敷の庭では優雅なティータイムが行われているはずだった。ーこの人が来るまでは。

「はい。貴方にお願いしたいんですー我が帝国の第2王女候補ソフィア・レスティア様。」

ふわふわの茶髪に童顔な顔つき、少し吊り目な黄色の瞳が猫を感じさせる少女ー彼女こそ、王女候補の1人だった。

「なぜ私なんだ?他にも代わりはいるだろ。」

チョコクッキーを食べながらソフィアは言う。これで5枚目だ。彼はそんな彼女の行動に若干引き気味に見ながら頷いた。

「はい。しかし、国王がどうしてもソフィア壌が良いと仰ってるんです。」

「……無理だ。」

ソフィアはきっぱりと断った。学園に潜入なんて冗談じゃない。学園なんて人の集団じゃないか。色んな策略が渦巻く貴族の学園とは近づきたくない。

「それが、もう手配してあるらしく、明日にでも学園にご登校なさるようにと…。」

「はぁ!?何だよ、それ…。元々私に拒否権はないのかよ…。」流石あの国王だ。ソフィアが断ると分かってて、あえて考える時間を作らせずに手配を済ました。あの男ならやりかねない。

「はぁ…行けば良いんだろ。行けば。でも、学園に潜入して何するんだ?」

「それが、何でも第一王子のサポートをしてほしいとのことで...」

「サポート?そんなものしなくとも既に部下はいるだろ。騎士団とか。」

「…フランス様は騎士団の1人に暗殺されそうになったことがあるんです。それ以降、護衛を強化することになったんですが以前の貴族会議で犯人が分からないのでサポートメンバーは多くいた方が良いという結論になりまして。」

「まぁ何となく分かったけど、何で私なんだ?」

「他の王女候補様はその、フランス様の傍に常にいるのは危険と判断したんですよ。王子を狙う者ばかりですし…。」

「それはそうだろうな。」

フランセスは容姿端麗、才色兼備な完璧な青年で若くして王子という立場に立った天才と言われている。そんな有望株を、次期王女になるお姫様達が放っておくわけない。

「その点貴方は、誰とも干渉せずにフランセス様ともあまり面識がなく、変わり者だということで王子に危害を加える事はないだろうと。」

「変わり者とは失礼だな。」

しかし彼が言ってるのはれっきとした事実だ。

ソフィアは王女候補であるのにも関わらず他の王女候補達と交流をしない。フランセスともあまり会ったことがなく、一度王城に謁見した際にちらっと見ただけで会話はした記憶がなかった。

「事情は分かったが、見返りが欲しいな。こちらにも有益を与えるのが筋ってもんだろ?」

「それについては国王からこれを預かってます。」そう言って彼はあるものを取り出した。

次の瞬間。

ーガタッ

ソフィアは思わず立ち上がった。男がびくりと震える。

「こ、これは…。よし、その命令受けて立とうではないか!」

ソフィアはガッツポーズでそう宣言した。

03

次の日の朝。

ソフィアは眠い目を擦って一階に降りる。

昨日送られたマリン柄の制服を着て。

サイズもピッタリでソフィア専用でスカートは歩きやすいズボンにしてもらった。

朝ご飯を軽く済まし、屋敷の外へ出る。

「おはようございます。ソフィア壌」

屋敷の前には昨日の男と馬車が見えた。彼はソフィアの姿を見て目を細める。

「よくお似合いです。」

「当然だ。私は立派なレディだからな。」

その小さい身長に似合わず自信は大きい。男は苦笑して

「どうぞ。」と言って手を差し出した。

馬車に揺られて数十分。

「着きました。」

御者に言われて馬車を降りる。目の前には大きな建物があった。魔法国らしい雰囲気のある学園で、校門越しに見える噴水が綺麗だ。

「では私はここで。後は魔道具の通信機器で指示されますので。」

「ああ。」

馬車が去っていき、ソフィアは1人になった。校門の鍵は厳重にかかっていてちょっとやそっとじゃ開かない。

「ー解錠<ピッキング>」

ガチャ

校門の扉が開いた。ソフィアは庭へと足を踏み入れる。噴水の傍にはベンチがあって生徒がちらほらといた。今は昼休みか…。タイミングも完璧だな。ソフィアはとりあえず耳につけていた蝶々型の通信機器、<オーディオコード>に触れ、国王との通信を試みる。

「もしもし。聞こえるか?」

ソフィアの問いかけに向こうから低い、でも威厳のある声が聞こえた。

「ああ。久しぶりだな、ソフィア壌。」

「ふん。御託は構わない。私は何をすれば良いんだ?」

ソフィアの言葉に国王は苦笑する。

「相変わらずだ。…ソフィア壌にはまず王子と接触してほしい。フランセスは人をあまり信用しなくてな、ああ見えて意外と暗い部分も持ってる。そう見せないように振る舞うのは王族として当たり前だが。」

「王子に接触か…しかし私は他の王女候補とは違ってあいつとの交流がない。下手に動けば怪しまれるぞ。」

「分かっておる。そうだろうと思って、フランセスのいる生徒会にソフィア壌を推薦しておいた。」

「生徒会?」

ソフィアは訝しげに首を横に振る。

「うむ。フランセスはこの学園の生徒会長をしておる。ソフィア壌は副生徒会長として推薦しておいた。これで動きやすくなるだろう?」

「なるほどな…。とりあえず生徒会室に行ってみるか。」 

「また連絡は追々する。」

「分かった。……じゃあな。」

ープツ。

通信機器を切ってソフィアは生徒会室へと向かった。

04 

「…ここか。」

ソフィアは生徒会室とかかれた看板の前に着いた。

ーガラッ

扉を開けると、なにやら騒がしい声がした。

「おーいフランセス、この資料についてなんだが生徒からここを変更してほしいと言われてるんだが。」  

「ああ、それはーー」

「フランセスさまぁ!そんなことよりお茶しませんかぁ?私の使用人が作るお菓子は絶品ですのよ!」

「リリア壌、今は…」

「フランセス様、こちらの書物に一部の誤りが。訂正するよう司書に伝えなければ」

「そうだね。後で伝えておくよ。ーーあれ、君は…」

彼ーフランセス・オーディェンヌが扉の前で突っ立ったままのソフィアの姿を捉えた。それに続いて他の人も一斉にこちらを見る。

ソフィアは一気に注目されて思わず顔を歪めた。

「なんだ、人をじろじろと。」

ソフィアの態度にフランセスの傍にいた青年がぴくり、と眉を動かした。どうやら敵と判断したようだ。

「客か?悪いな、今取り込み中なんだ。」

もう一人、フランセスの傍に立っている元気そうな青年が申し訳なさそうに言う。

「もしかしてぇ、フランセス様目当てですかぁ?」

ニヤニヤと意地の悪い笑顔浮かべるのは可愛らしい容姿の美少女だ。

ソフィアは三者三様の反応に心底めんどくさそうにため息を吐いた。

「私は第一王女候補のソフィア・レスティアだ。生憎、私が用あるのはそこのフランセスとやらだけで、他は要らない。」

ソフィアの横暴な自己紹介にリリアと冷たそうな青年は不快そうにソフィアを睨み付ける。

そのフランセスはソフィアを驚いてじっと見つめた。

「第一王女候補の子か。色々噂されてるからどんな子がと思えば、意外と普通に可愛い子供なんだな。」

元気そうな青年が感心したように頷く。

「誰が子供だ!私はれっきとしたレディだ!」

ソフィアは不服そうに怒る。青年は苦笑いをして「ごめんごめん。」と言った。全く、どいつもこいつも人をチビ扱いして、失礼極まりない。

「…第一王女候補ですって?」

リリアは先程の甘い声ではなく低めの声で呟いた。リリアの視線は冷たく、ソフィアだけに注がれている。

「こんな子知らない。私の記憶からして王女候補にこんなチビで横暴なお子さまはいなかったはずよ。」

「ああ、お前も王女候補なのか。興味ないから知らなかったよ。それにしても国王もお人好しだよな。ーこんな我が儘で馬鹿そうな奴を王女候補に選ぶなんて。」

ソフィアは平然とした様子で言う。リリアは頬を赤らめて「なんなの、この子…!」とソフィアを睨み付けた。

次に、冷たそうな青年が口を開く。

「ソフィア・レスティア壌、我が生徒会に何のご用件でしょうか。」

「そうだ。私はフランセスとやらに用があるんだよ。」

ソフィアはそう言ってフランセスの方を見つめる。

「僕に何の用かな?」

一見穏やかそうだが、よく見ると瞳の奥が笑っていなかった。警戒している証拠だ。ソフィアは彼に数歩近づいて、

「お前、命を狙われたって本当か?」と聞いた。

ソフィアのあまりにもあけすけな言い方にこの場の空気が少し冷えた。しかし、ソフィアはそれに気付く事なくフランセスをじっと見つめている。

「…それがどうしたの?」

フランセスは感情の読めない表情で尋ねる。否定も肯定もしないということは…。

「聞いただけだ。本当なんだな。」

「……。」

フランセスは黙りこくる。それが肯定を意味していることに、ソフィアはいち早く気づいた。

「それと貴方の、何の関係があるのよ。」

リリアがフランセスを庇うように言う。彼女の瞳は未だに冷たくソフィアを鋭く見据える。

「確認しただけだ。ーあと、私は国王直々にこの生徒会の副生徒会長に推薦された。だから今から私が副生徒会長だな。」

ソフィアの発言に彼らは驚いた後奇妙なものを見るような目でソフィアを見つめた。

「何ってるの?初対面のあんたに生徒会に入る権利なんてないでしょ!?」

「そうです!王女候補か知りませんが馬鹿にするのも…」

「まぁ待て。本当かも知れないだろう」

カッとなる二人をワンコ(元気そうな青年)が宥める。

「ー確かに、父からソフィア壌を副生徒会長に推薦したと聞いた。」

フランセスがそう言うと、ソフィアは満足そうに笑い、怒っている2人はぐっと黙り込んだ。

ワンコは驚いた様子だった。

「まさかあの国王に推薦されるなんてな。王女候補では初なんじゃないか?」

ソフィアはつまらなさそうにふんっと鼻を鳴らす。

「別に興味ないが…せっかく推薦されたんだ、副生徒会長を全うしてやる。」

ソフィアがそう意気込む一方で納得のいっていない様子の2人と何考えてるのか分からないフランセスがそれぞれ考え事をしていた。

(…父から聞いていたが本当によく分からない人だ。僕も大概感情が読めないと言われるが彼女も相当…変わってる。)

(なんなの、この女…!フランセス様にちょっかいかけたら許さないから)

(一体国王は何をお考えで…こんな小娘を生徒会に入れるなんて。)

(今日の昼飯何にしよーかな。)

それぞれの思惑を知らないソフィアは不思議そうに首を傾げた。

「何を黙り込んでるんだ?私は食堂に行ってくるから後は任せたぞ。用があればこの通信機器で繋げ。」

ソフィアはそう言ってワンコに<オーディオコード>を放り投げた。

「おっと、」

ワンコが何とか受けとったのを確認するとソフィアは生徒会から出ていった。

05

昼の食堂は混んでいた。ソフィアは落胆した様子で持ってきていたカップパンケーキを口に運ぶ。

甘くてフルーツの酸味が効いていてとても美味しい。

ーピッ

「聞こえるか?」

「ああ。息子に接近できたか?」

「まぁな。本当にあいつはキラキラ王子様なのか?ちょこっと話したが腹黒そうだったぞ。」そう言うと国王は愉快そうに笑った。

「はは。流石ソフィア壌だ。会って数分で息子の本性を見破るとは。」

「で、次はどうすればいい。」

「フランセスの信頼を得るのだ。方法は任せる。」

「信頼ねぇ、」

通信機器を切って、はぁ、とため息を吐く。明るい太陽が眩しくて思わす顔を背ける。ー太陽は嫌いだ。

「…さて、どうしようか。」

ソフィアは日陰に向かいながら1人呟いた。


間幕

ー僕、フランセス・オーディェンヌは先程までいた小柄な少女、ソフィアについて考えていた。第一王女候補だと言う彼女は国王に推薦されて副生徒会長になる。僕はなぜかそれが羨ましく思えた。父から直接推薦された、彼女のことが。

ふんわりとした茶色の短いボブ、黄色の猫のような鋭い瞳、幼い顔つきに対して性格は少し横柄で自信家。生徒会に入って数分でリリア壌とレオを敵に回した変わり者の女の子。

「フランセス様、私は反対です!あんな小娘に副生徒会長なんて務まりません。貴方の事も不敬な呼び方で上から目線な物言い…生徒会にはふさわしくない。」

レオがそう言う。青い髪に黒い瞳を持つクールな青年であるレオは珍しく憤慨した様子だ。

「私も反対ですわ!あんな人、王女に相応しくありませんし、何よりフランセス様を誑かそうとしているに決まってます!」

甘い黄色の髪に、紫の瞳、アイドルらしいキラキラした美少女、リリアも不愉快そうに言う。彼女は生徒会メンバーではないのだが、王女候補であるため日々僕の元に来るようになっていた。

「しかし、父上の命令は絶対だ。」フランセス

もあまり快く思っていないが、国王の指示なら仕方ない。ーーもし僕に害を及ぼすなら、殺せばいいだけの話だ。

07

その日の夜。

ソフィアは今日もらったバッジを寝転びながら見つめていた。これで生徒会に伝ができた。王子との接触もしやすくなる。

ー『フランセスはああ見えて意外と暗い部分も持っている。表に出すのは王族として失格だから、あんな…黒い性格になったのであろう。』

国王の言葉が蘇る。フランセスは次期国王としてこの国の中心的存在に立つ必要がある。そのためならどんな手段も選ばないだろう。

ーきっと、私のことも。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る