鶴屋さん殺人事件
稲富良次
第1話 朝比奈美紀第一回事情聴取(緊急取調室)
朝比奈美紀第一回事情聴取(緊急取調室)
二ノ宮金次郎
「朝比奈美紀さん。今回の事情徴集を担当する二ノ宮です」
三谷善次郎
「三谷です」
二ノ宮
「あなたは鶴屋しのぶさん、小泉信次朗さん、伊藤壱次さんを殺害したと
供述しています。間違いありませんか」
朝比奈
「まちがいありません…私を死刑にしてください」
三谷
「我々としては事件の顛末を詳しく知らなければなりません。これは亡くなった
ご遺族の方のためでもあります。詳しく教えてください」
二ノ宮
「それではあなたはYUKIの指示で三人を殺害したというのですか?」
朝比奈
「そうですユキの指示に従っても殺したのは私です。早く私を死刑にしてください」
二ノ宮
「それは無理かもしれませんよ。こんな荒唐無稽な供述では精神鑑定になる可能性が高いです。なにより凶器についてあなたは全く具体的な供述をしていません。
それと在学時の事件に対しては黙秘を続けていますよね。」
三谷
「あなたは誰かを庇っているんじゃないですか?」
五島管理官
「皆さん事件です」
全員見回す。おもむろに
「みなさんもここ一週間で三件起きた連続殺人の犯人が検挙されたのは
ご存知でしょう。被疑者は「朝比奈美紀」18歳、今年大学に入学したばかり。少年法が改正されたことで今回六課の事案になりました。」
六坂六平
「マスコミに発表された内容と若干違うよな」
五島管理官
「そのとおり犯行の手口が残忍で猟奇的であり当初のプロファイリングでは
35歳独身引籠りの男性の犯行と目されていましたが、捕まえてみれば
未成年の女性、上層部としては誤認逮捕の線は消したいのでしょう。
したがって具体的な事件の内容はマスコミには発表していません」
三谷善次郎
「詳しい捜査資料は一課から回ってくるんですよね」
五島管理官
「勿論です。取り調べは一課と共同で担当の刑事も来ています。挨拶」
二ノ宮金次郎
「二ノ宮です」
敬礼
「今回の事件の担当をしていました。皆さんとお仕事を一緒にできる事
は光栄です」
一浦勇気
「面白くなってきたんじゃない。被疑者は女性でしょう。私にやらせて」
五島
「一回目は肩慣らしの意味で二ノ宮警部補と善さんでやっていただきます
被疑者の対応によっては一浦さんとロッペイさんに交代という線で当面は
いかがですか」
一浦
「しかたないわね、モニタ越しにじっくり観察させてもらうわ」
四葉澄子
「被疑者のパソコンのデータは科捜研に行ってコピーもらってきます」
三谷
「それでは恒例のアレやります」
三谷善次郎は右手を出した
五島は二ノ宮に右手を無理やり引き出させて全員が車座に手を出す。
二ノ宮以外全員
「ウェーイ」
二ノ宮
「な、なんなんです」
一浦
「メジャーリーグ相手にオオタニがやったやつよ」
六坂
「おまじないみたいなもんだ、よろしく頼むぜ、若いの…」
六課の全員は取調室の白板の前に集まった。
二ノ宮は手慣れた手つきで白板に関係者の写真を貼り付けた。
おもむろに二ノ宮が口を開く。
二ノ宮
「朝比奈美紀 18歳
都内聖花女子大の一期生、父親は財務省の官僚、母親は専業主婦だが結婚前は教員をやっていました。在学中の成績は優秀、補導歴なし、出席日数も足りています。
被害者の三人は
鶴屋しのぶ 18歳
城南大学の一期生、第一の殺人の被害者です。朝比奈みくるとは高校時代の同級生
でした。通学中のバスを降りたところまでは目撃証言はありまずが翌日の16時頃
多摩川の河川敷で発見されました。死因は頭部頭蓋骨挫傷による出血死、凶器は
発見されておりません。衣服の乱れはなく争った跡もありません。鑑識によると
死後16時間たっているとのことで死亡推定時刻は前日の9時10時で最終目撃時間の直後に殺害されたと推測できます。
その二日後、小泉信次朗18歳
東京帝大の一期生、父親は民自党の衆議院議員、母親は城南大学の理事長です。
この方も朝比奈みくるとは高校の同級生でした。大学の研究室で頭部の後ろから殴打
されており第一の殺人の殺害方法と酷似しています。犯行時刻は20時ですので居残りで研究していたのでしょうか。監視カメラに不審者の映像はありません。
そして最後の被害者が伊藤壱次18歳
予備校通いの浪人生で自宅前の公園の草むらで発見されました。これも同様の撲殺
で近所の主婦が一昨日の10時頃発見しました。
この方も朝比奈美紀と同じ高校の卒業生で同じクラブに在籍していました。
それで朝比奈美紀に任意同行をかけたところ本人が三件ともやりましたと自供して
逮捕状なしの緊急逮捕になりました。
本人は完全黙秘を続けていますが三件ともの犯行時刻にアリバイがなく精神状態も
不安定でこちらに回されたという訳です。」
一浦勇気
「一課は三人の被害者の共通事項として同じ高校の同じクラブの在学生だった
ということで朝比奈美紀を検挙したのよね」
「それはどんなクラブで四人以外でメンバーはいなかったの」
二ノ宮
「クラブの名前はスペシャル・オブジェクティブ・ディメンジョン企画
通称SOD企画、異世界に行ける方法を模索する会だそうです。メンバーは発足時は五人でしたが卒業時は四人でした」
四葉澄子
「オカルトみたいね、その抜けたメンバーは」
二ノ宮
「晴海涼風という女学生で二年生の時に行方不明になりました。両親から捜索願は出されていますが現在まで発見されていません」
「SOD企画は二年の夏休み保護者一人と全員で個人所有の無人島に行って
います。その時は嵐で通信途絶、クローズドサークルでマーダーミステリーの余興をしており晴海涼風は第一の被害者の設定だそうです」
一浦
「その企画ではどんな殺され方だったの」
二ノ宮
「メンバーの一人と洞窟に行き、そこで離れ離れになり翌朝浜辺で発見という筋書き
だそうです」
四葉
「付近の海は捜索した?」
二ノ宮
「勿論です。しかし死体はあがりませんでした」
「被疑者全員を一週間拘束し別々に事情徴集しましたが証拠不十分で釈放
となりました」
六坂六平
「そんな一大事なら新聞に大きく載っただろう…」
二ノ宮
「それが事件の当事者の一人の父親が国会議員で上からの圧力でうやむや
になったそうです」
三谷善次郎
「今回の事件との関連はありそうですね…」
一ノ瀬
「鶴屋しのぶは城南大学の一期生、小泉の母親は城南大学の理事長、鶴屋しのぶは鶴屋財閥の創始者の孫、小泉の父親は次期総裁候補、小泉の研究機関に多額の寄付を鶴屋
財閥がしている。しかし晴海と伊藤は普通のサラリーマンの家庭よね。
二ノ宮
「高校時代のSODは神セブンとも呼ばれていたそうです。」
三谷
「メンバーって幽霊部員の鶴屋さんを入れても五人でしょう。後の2人は?」
二ノ宮
「朝比奈美紀の父親は財務省の官僚、小泉の父親とは「S2機関」というワードで繋がっています。そして母親は元城南大学の教諭でした」。
「S2機関」というのは「日本の未来予知・予測の機関」で現在の清明寮とも呼ばれ予算を湯水のように吸うブラックホールらしいですよ。
SODの部室で見つけた書類と朝比奈美紀のパソコンで見つけたデータの共通項です。
「異世界に行く方法」
10階建てのマンションのエレベーターに乗りまず、10階に行き次に5階へ、そこ
で女性が乗り込んできたら成功、この女性と話さずに一階で女性が下りてから10階に行く。これで異世界に行けるようです。」
「そして…
「当時の乗船記録が見つかりました。
行きが晴海、鶴屋、小泉、朝比奈、伊藤、渚
帰りが鶴屋、小泉、朝比奈、伊藤、渚となっています。」
一ノ瀬
「ちょちょっと、橘って誰?」
二ノ宮
「鶴屋家の家令、執事だそうです。この企画の保護者になっており
船舶免許も取っているそうです」
一ノ瀬
「じゃなによ、嵐が収まった翌日、船に乗って本土に帰ったってこと?」
二ノ宮
「供述では船舶無線が故障しており本土の公衆電話から百十番通報した
そうです。
島に滞在できなかったのは元々一泊二日の予定で食料が心もとなく。島に水源は
ありません。落雷で電気が止まり冷蔵庫が使えないですし…
なにより大人の渚だけが島を離れると、殺人の場合、残った生徒が
二次被害にあう可能性が高いという判断でした」
一ノ瀬
「無理筋だけど一応の理屈は通るわね。無線ができない時点で公海の航行は
できないと記憶してるけど」
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