テープ起こし(滝沢)1

(2024_0517_takizawa_1.m4a)


  あー、はい。えっと、Mさんの件ですよね。あの、名前、出しても……まあ、もうご本人いらっしゃらないんで、いいですかね。三島さんって方なんですけど──亡くなってます。


 いやー、びっくりですよね。僕が取材したのが……ええと、去年の秋ごろだったかな。そこから数ヶ月も経たないうちに、です。


 死因ですか……ええ、一応、僕のほうでも調べたんですけど、飛び降りだったそうです。タワマンからの。警察の方でも事故じゃなくて自殺って扱いだったみたいです。


 三島さん、テレビ局の仕事を辞めて地元に戻った後、すぐに結婚されたんですよ。まだ新婚さんで。

なんであんなことになったのか、周囲の人も誰も心当たりがないみたいなんです。


 僕もね、取材の時はすごく穏やかで、しっかりした印象を受けたんです。声も落ち着いていて、言葉を選ぶタイプで。でも、ところどころで、ふっと言葉を詰まらせるような瞬間があって……今思えば、あの時すでに、何かを抱えてたのかもしれません。


 その時の記事、覚えてます?ああ、その取材ですもんね。 『職場で起きた怪現象』ってやつ。視聴者から送られてきた家族写真のデータに、亡くなった人の顔が写ってるって話。あれがすごく読まれてですね、編集部からも「続きはないのか」って言われて。ちょうど追加取材を申し込もうとしてたんですよ。


 例の「家族写真」のデータを見つけて、あれが本当に“ヤバい”写真なのか検証する企画です。

だけど、連絡がまったく取れなくて。電話もメールも全部ダメで。

ダメ元で、番組の制作会社に問い合わせたりもしたんですけど、まあ、うちみたいな弱小編プロに構ってくれるわけないですよね。

いえいえ、すみません。


 結局、企画は泣く泣くおじゃんになりました。


 それでですね──その後、なんと見つかったんですよ。例の写真データ。

どこで見つけたと思います? 三島さんのノートPCの中からです。


 ははっ!なんで僕がそのPCを?ですよね。

実は、彼女の旦那さんから連絡があったんです。

「由紀のPCから、例の写真が出てきました」って。


 ……あ、説明が遅れましたね。

三島さんの下の名前は「由紀」さんで、結婚して苗字が「稲富」に変わってました。

でもここでは旧姓の「三島さん」で通しますね。そのほうがわかりやすいと思うんで。


 旦那さん、取材の件は奥さんから聞いてたみたいなんですよ。

で、三島さんが亡くなったあと、遺品整理でPCの中を確認してたら、例の写真が出てきた。

それでわざわざ僕の連絡先を調べて、写真を送ってくれたんです。


 送られてきたのは、三島さんが言ってた通り、PhotoshopのPSD形式のデータでした。

レイヤー構造のある、編集可能な画像ファイルです。


 でも…別にレイヤーは分かれてなかったんですよ。

見た目は普通の家族写真。あれだけ言ってた“死んだおじいさんの顔”は、どこにもなかったんです。


 三島さんが嘘をついてたのか、それとも……何かの理由で“あのレイヤー”だけを消してしまったのか。

あと、なんで三島さんがそのデータを持ってたのかとかも分からずじまいです。

正直、扱いに困りましたね。雑誌としてもオチが弱くて。


 で、これは割と最近なんですけど──

その旦那さんも亡くなられたんです。交通事故でした。


(カフェ内で食器が割れる音)


 わ、なんすかね。誰か落としたんすかね。あはは、ビックリした…


(短い沈黙)


 ……いや、すみません。こういう話してる時に音がするとビビりますね。


 あ、そうそう、あとでレコーダー、持って帰る前に確認した方がいいですよ。時々、変な音が入ってることあるんで。……なんて、あはは、冗談ですけど。


 あまりに偶然が続いていて……なんかもう、呪われてるって言いたくもなりますよね、この写真。

僕もさすがに怖くなって、送られてきたデータはすぐ削除しました。


 今のところは特に何もありません(笑)

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