日本(今)昔ばなし
ロロ
第1話『エレベーターの十三階』
『エレベーターの十三階』
むかしむかし、あるところに、大きなビルが建ちました。空に向かってまっすぐ伸びたそのビルは、町の者たちから「百階ビル」と呼ばれ、都会のしるしとして、毎日大勢の人が出入りしておったそうな。
さて、このビルには、ちと変わった噂がござった。
「十三階には、行ってはならぬ。」
そう言うて、ビルで働く者たちは、そろって目を伏せたそうな。
でもな、見てみると、エレベーターのボタンに十三階なんて文字は、どこにも見当たらんのじゃ。十ニ階の次は十四階、十三階など最初から無いように見える。
ところがな――。
ある日、遅くまで残業をしていた若い男が、ふとエレベーターに乗ったんじゃと。ボタンを押そうとしたら、そこに「13」と書かれた、見たこともないボタンが光っておった。
「なんじゃこれ?」
そう言うて、男はふらふらと指を伸ばした。ぴ、と押したそのとたん、エレベーターはしゅるしゅると、音もなく昇りだした。
そして開いた扉の向こうには――人の気配も、光もない、真っ暗な階が広がっておった。
男が一歩、足を踏み出したとたん、カチリと扉が閉まり、エレベーターは静かに、元の階へと戻ってきた。
が――中には、誰もおらんかったそうな。
それからというもの、「十三階のボタンが光ったら絶対に押すな」と、ビルの者たちは言い伝えるようになった。
そして今でも、まれに――ほんとうにまれにな――そのボタンは、ひっそりと、灯るのじゃとか。
――ちょいと怖い、不思議な話でござんした。
おしまい。
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