第3話 万博会場殴り込み部隊
「まもなく目標に到着にします。
目標到着時刻22時15分」
これは軍事行動
現日本では「威力偵察」になるのか
軍用ヘリは夢洲の大阪万博会場に向かっていた。
「22時15分をもってオペレーション・ゴッズ・アイダストを発動する
おくれ」
「スペシャルフォース準備いいか」
「はい」
自衛隊員にだっこされたスペシャルフォースの面々は緊張した面持ちで答えた。
自分のパラシュートではないとはいえスカイダイビングを訓練なしで行うのだ。
「着地の時、くるっと丸まっていろよ」
「目標上空に光の乱舞を観測」
「回転しています、立体映像を形成中」
「虚映から実像に変換されます。質量ゼロから1トンに増加」
実像は黒い球体に太陽のフレアのように黒い手のようなものが放射線に映えている。
「球体中央部に高熱源反応」
黒い球体の中央に瞼が現れた。
その目が開かれた刹那
世界が一瞬暗くなる。
ヘリコプターの右舷を赤い光が通過した。
「高火力のレーザーです。熱反応は一千度!」
隊長は叫ぶ!
「現時点で本作戦は「威力偵察」から「自衛行動」に移行する。
球体の上部をとるまで高度をあげろ」
「円環の範囲外ではやつらの魔法がつかえないほずだが…」
「たぶん高熱のレーザーが形成され、ある程度の距離を進めば後は慣性で現実世界に
突入するんでしょう。質量保存の法則で熱がなくなるまで直進する」
「そんなのありか」
「目が上の方までグルングルン動かないことを願うわ」
「第二波きます!」
音のない光が右舷の機体の一部を蒸発させた。
「もっと高度をあげろ」
「やつらが本気になれば、大阪の街の全てが焦土になるぞ」
「間隔は数十秒というところか」
「効果地点までおよそ二十秒」
「くそう、あと一発くるぞ!」
ジュウ
「ローターの一枚が溶けました!」
「高度維持できるか!」
「何とか」
「円環の内部に到着しました」
「スペシャルフォース降下!」
「降下!」
「降下!」
「降下!」
ガクン
機体が傾いた。
「かまわん!続けて降下させろ!」
「降下!」
「降下!」
「降下!」
最後のスペシャルフォースを降下させると機体はきりもみ状態になりながらゆっくり
墜ちていく…
「機体の周りに多数の飛行物体が接近しています!」
飛行形態のキューブが上昇していく。
そのローターは発光ダイオードになっており光の疑似立体画像が形成されている。
その姿は「蝙蝠の羽の生えた小鬼」のようだった。
「グレムリンです!」
グレムリンは機体にへばりつくと、その口でジュラルミン製の機体を
かみ砕きだした。
キャノピーの硬化ガラスが破られる。
「うぁぁぁぁぁ」
軍用ヘリコプターのエンジンが爆発した。
黒い色で染められたパラシュートはゆっくり降下していく。
「速水隊長・・・」
ヘリコプターは会場横のコンテナのガントリーと接触して再度爆発した。
「これは助からないわ…」
「うかうかするな、グレムリンがくるぞ」
「われの出番かねえ…」
突然上空に黒雲が発生する。
「オンバサラ・ウタラウンケン・・・」
グレムリンが降下していく。
しかしそのまた上から豪雪が降り出した。
一メートルほどの「つらら」がグレムリンの上に落ちる。
それが直撃しなくとも極低温がキューブの回転ローターの動きを止める。
プシュンプシュン
揚力を失ったキューブは画像のグレムリンとともに墜落してゆく。
「流石!おばばだぜ」
「妖力を使いすぎた…わしぁ寝る…」
自衛隊員は地面とタッチした。
急いでスペシャルフォースのベルトをとりはずす。
パラシュートは畳まず放置した。
「わたしはおかぁさんを負ぶって隠れます」
土留は一回り小さくなった遠野小雪を抱えて走っていこうとする。
「これを持っていきなさい!」
自衛隊員が狙撃銃の入った肩掛けを土留百代に渡す。
「でもこれがなければ戦えないんじゃ…」
「本官は拳銃一丁あれば充分です。
走りなさい!
ムーヴ!!」
自衛隊員とスペシャルメンバーは散開した。
見通しがきく公園にいては、いい的になるだけだ
はたして公園のあちこちから腐った悪臭とともに動く死体が地面からわき出した
なかにはチェーンソーを持ったものもいる。
「おいおいユーエスジェーは川向うだぜ。
それに季節は四月だ、十月にはちと早いぜ」
「こいつはいけない。我々の恐怖や思い込み…夜の公園で敵地ならゾンビが出てくるかもという決めつけ、強迫観念というべきか、それがやつらを産み出している」
「ということは!」
自衛隊員が軽機関銃でゾンビを撃っているが効いている様子はない。
「頭以外は無駄だ。公園にいるとキリがない。セルの城に向かって強行突破です!」
「肉弾戦かよ!」
瓢滑は上半身の軍服をはだけた。
青緑色の肉体が肥大してニメートルほどになる。
「ハルクか!」
「いや、河童だね、頭髪が抜け出した…」
山童の露瓢滑を先頭にして駆け出した。
ゾンビを掴んでは投げ、いなしては、叩きこんだ。
しかし隊員の一人がゾンビにつかまり地面に倒れた
「やつを助ける!」
「しかし…」
「どうせ「しんがり」がいなきゃ追いつかれる。
後はたのんだぜ」
「わかった、死ぬなよ!」
公園をぬけた。
万博では珍しい。完成した企業パピリオンのエリアである。
「大和の艦橋まで行かないとこちらの勝ち目がない。
しかし立体プラネタリウムに鮫島と川森がいるはずだ。
二手に分かれるしかない」
「キューブの迷宮は僕と八咫さんにまかせて下さい」
「そうだな…鮫島弟の言では大人数行っても混雑してしまうだけだ」
「マスターも気をつけて下さい」
「言いくるめでは誰にも負けないさ…じゃあ後で」
「じゃあ後で」
喫茶店のマスターと要乃亜は敵の本拠地に乗り込んだ。
戦闘員がわらわらと出てくる。
「まかせて」
要乃亜はヘルメットをかぶり、全裸になった。
「先生あんまりジロジロみないでね!」
「おいおい、けっ光仮面かい」
「立川流淫術・壱の形「綱手」」
目にも止まらぬ早技で戦闘員達の間を駆け抜ける。
中には失禁する戦闘員もいる。
二十人ほどいた戦闘員は機関銃を乱射することなく
床に突っ伏した。
「はぁはぁはぁ…」
流石に妖力を使い果たしたのか乃亜は肩で息をしている 。
自分のジャケットを乃亜に羽織らせマスターは尋ねた。
「いったいどんなカラクリだい…
体中から粘膜を出して滑るように駆け回ったようだが…」
「ローションみたいなものよ…
相手の快楽中枢を瞬時に刺激して果てさせたの…」
「それでどうなる」
「マスターの「賢者タイム」ってどれくらい…」
「ハハハ、それ聴くかい。一時間くらいかな…」
「まぁご謙遜
でも奴らは一晩くらい何もできないわ。
いえ、何もしたくないのよ。煙も出ないというやつね」
「恐ろしい技だね、ヘルメットを被ったのは照れ隠しかい」
「もう嫌な人ね。流石に一晩で二十人は疲れたわ、休ませて」
「わかった、休んでいたまえ…」
「俗に言う立川流(たちかわりゅう)」=「彼の法」集団の流れか…
二ノ宮警部の方はどうなっているのかな…」
三メートル×三メートルの立方体「セル」によって形成された「立体迷宮」
それが円環の内海に浮かんでいる。
「まさに戦艦大和」
「わざわざこれを作ったのは意味があると思う」
二ノ宮と八咫は「ここ入口」というセルの前で躊躇している。
わざわざ罠であろう場所に踏み込むのか?
「アメリカのエリア57の由来であれば星に帰る船に見立てているのかも
知れませんな」
「宇宙人なら葉巻型円盤で帰るだろ…摩耶観光ホテルで垣間見た…」
「なんと」
「入りましょうか」
「是非もなし、虎穴に入らざれば虎児を得ず」
二人は中に入った。
二メートル×二メートルの空間は大人二人が入ると「ぎゅうぎゅう」だった。
「まさに犇めくとはこのこと」
前、上、左右の壁の中央、縦一メートル横一メートルの横穴が空いている。
どこにあるのかはわからないが薄暗くはあるが視界は良好だ。
四隅の角に照明がある。
いまは何もない。
まさに空間。
「これを進んでいかなければならないとは…
たしかに気が滅入る」
「鮫島某の言によれば罠も多数仕掛けられているとのこと」
「キューブという映画に習って隣の部屋に靴でも投げ入れるか」
「それは胡乱というもの
暫し目を閉じられよ」
下に縮む感覚がある。
「開けられよ」
「なに、体が50センチに縮んでいる。
それにあんた背中に黒い羽根が映えている…」
「御伽草子説法・巻の弐「一寸法師・打出の小槌」 同じく
「御伽草子説法・巻の参「牛若丸・鞍馬烏天狗」
でござる」
「忍法か」
「陰陽・忍法・外法であればこれも修験道の極み
我につかまりなされ
飛びまする!」
はたして半身に縮み飛ぶ体であれば、このような造りでも障害にならず
罠の作動においても人の動作の作動であればかかることもなし
みるみるうちに中心部に達するかと思えば・・・
「なんと!!壁が透明になりましたか!」
透明になれば壁がどこにあるのかわからない。
衝突の危険が格段に増す。
だがこれも予想済み
「四の型「蝙蝠鬼(へんしょうき)」」
黒い鳥の羽がコウモリの羽に変化する。
八咫の口から声にならない声が発せられる。
「なるほど超音波の反響か。
上を目指して下さい。
第一艦橋がコントロールセンターです!」
二人は上昇する。
届いた。
そこは旧帝国海軍の旗艦のブリッジになっていた。
「ここから見るとブロックの塊であった外観が戦艦のそれに変わっておりますな」
八咫が張り出しから後ろを見た。
「ぼくらがそのように意識したからでしょう。鮫島弟が仕掛けた暗示が仇となった」
二ノ宮は懐から巻紙を取り出す。
「マスターから教えてもらった式神の操り方です。言います。
我、大日本帝国海軍提督、二ノ宮金次郎尊徳が発する。
この艦を今より「大和型五番艦・金剛」と命名す。
天照大神新人の任による我に指揮権を禅譲せよ!
承認の証に警笛鳴らせ!」
ヴォォン
大音声が万博博覧会の隅々まで響き渡る。
「その心意気は良し。
第一砲塔、第二砲塔、回頭、46サンチ砲劣化ウラン徹甲弾充填
目標、前方頭上バックベアード
てぇ!」
ズドォン
唸るような響きを立てて
金剛の艦砲射撃が黒い球体のバックベアードに命中する。
着弾したバックベアードは視線をこちらに向ける。
閃光
一瞬遅れて金剛の右側のレーダーが融解して内海に墜ちる
ザブーン
「いかん、火力が圧倒的に違いすぎる」
「俺がゼロで行く!」
「ゼロ?!」
「艦上戦闘機零式よ!
ここにないとは言わせないぜ!」
八咫は船尾に設置された二機の艦上戦闘機発射台に鎮座する零戦を指さした。
「俺は特攻上がりだ、行ってくる!」
そういうやいなや艦橋の緊急脱出ハッチから滑空した。
「ご武運を…」
いつのまにか二ノ宮の姿は帝国外軍の純白の軍服、金モールド、腰には軍刀
「備前長船兼光」を拝領していた。
「第二破、斎射
てぇーー」
ズドォン
八咫は飛行服になっていた。零のキャノピーを開けコックピットに乗り込む。
計器を確認しエンジンを回す。
ブルルルル
「いけるぞ!二ノ宮!!カタパルト始動!!」
パチンコの原理で零が射出される。
みるまに飛行可能速度に達し大空に舞い上がる。
「よし、旋回して目玉にぶち当ててやる…」
しかし斜め上空から曳光弾がかすめる。
ダダダダダ
「なんだと!グレムリンがまだいるのか!」
凄い速度で白い機体とすれ違う。
見事にインメルマンターンを決めたそれは…
「VF-RX78…」
「ガンダム型バルキリー…」
「噓だろ…」
「ゼロセン聞こえるか」
友軍しかとらえないスピーカーから声が聞こえる。
「俺は川森政治、ガンダムバルキリーのパイロットだ。
貴殿の名を知りたい」
「鈴木八咫…」マイクを使う。
「そうか、第一次世界大戦空戦の理にのっとり今手袋を投げた!ハハハハハ
決闘を申し込む!」
「そのドッグファイト、受けた!」
一千年の時間差
圧倒的性能差の空中戦が始まった。
ここはその川森政治主導のパピリオン
立体映像プラネタリウム円形ホールの中である。
ヴォォン
大音声が万博博覧会の隅々まで響き渡る。
「始まったな…奴さん大和の奪取に成功したらしい」
掬星台喫茶店のマスターはすり鉢状の観覧席の最上段にいた。
その対面に…
「なんのことはない私の予言どおりだ」
鮫島弟が白のスーツに黒字に内が赤のマントのいでたちで答える。
「我らのみゃくみゃく様の敵ではない」
鮫島兄がパイプを咥え黒のスーツを着こなして答える。
「君達のスペシャルフォース「妖怪探偵団」も残るは口数の減らない
凡夫ひとりだ」
二人の声は重なった。
「おっと、口しか能がないのは認めるが凡夫はいいすぎだろう。
これでも「こちら側」のメッセンジャーの任を預かっている。
そちらさん、もう頃合いだ。
幕引きといこうじゃないか」
「無条件降伏か、こちらが圧倒的有利なのに講和もあるか。
片腹痛い」
「はたして本当にそうかな。
お前さん方が自衛隊のヘリを撃墜した時点で日本政府との手切れ
が決まってしまったんだが、どう言いつくろうね」
二人は笑った。
「どうという事はない。この円環の中でのことは撮影できない。
報道できない。この国では報道されない事は無かった事と同義だ。
自衛隊のヘリが落ちたのは事実だ。それは覆せないが…
この国の愚民どもが真実に到達することはない。
施政者には威嚇効果充分だ。
いつでも大阪湾を火の海にできる。
ここを出島にして治外法権を認めさせることもできよう。
観客を誘致し楽しませ洗脳し
カジノで金を落とさせて堕落させる。
ウクライナで使われたドローンよりも有効で殺傷能力もある
キューブを憲法九条に抵触することなく生産し行使できる。
貧乏国家日本に寄生する超技術軍事大国
これは宗主国アメリカ合衆国の暗黙の承認も得ている。
隣の盆暗国家よりも頼りになる存在だとは思わんかね?」
「ぜんぜん思わないね。
なによりお前さん方は性急すぎる。
これじゃ宇宙人が日本を征服したことと変わらないくらい驚天動地だ。
それじゃあ、この世界の「ことわり」が持たない。
反動であんたがたに相応のしっぺ返しがくるんだぜ」
マスターは反論を唱えた。
二人は詠唱した。
「叶った。叶った。
願いが叶った。
日本あげたら願いがかなった。
地球の支配を許してくれた。
神様願いをかなえてくれた」
「そういうことか。
この世界の破滅さえ厭わないんだな…
いまの詠唱で察したよ。
なるほど大会マスコット「みゃくみゃく様」で感ずくべきだった。
偽りの神「ガンマ」
またの名を「百目」
外道照身、霊波光線、汝の正体みたり!」
中央の立体映像投影装置が大きな黒い闇を映し出す。
胴体、足は人間だがその上は
漆黒の雲に多数の眼球が飛び回る異形の邪神が顕現した。
その影に隠れて見えなかったが
二匹のトカゲ?いや鰐(ワニ)のような怪物がのそのそと現れた。
「古代暴竜アイアンギラス!」
「冷凍怪獣バルバルゴン!」
五十年の時をへて大阪に再上陸か…
「これでジョンスン島のソドムまで現れたら三大怪獣地球最大の決戦だな」
そんな憎まれ口を叩いたが、ちゃっかり後ろの出口を探し開けようとしたが…
当然それは鍵がかかっている。
二匹の怪獣は爬虫類特有の愚鈍さではあるが、歩みは確実にマスターににじり寄る。
グルルルル
ギェェェエ
「まずいな…あの兄弟二人が化けているとしたら幻影ではなく本当に
食い殺されるぞ…」
場面は変わって万博上空
夜明けが近い夜空に二つの戦闘機がダンスをするように舞っていた。
推進力と火力に勝りゼロ戦の機銃ぐらいではビクともしないガンダム型ヴァルキリー
その軽量と旋回性能、なによりパイロットとしての技量は数段上の零式艦上戦闘機
猛烈なGに耐えながら鈴木八咫は考えた。
「まずいな、多分、川森は操縦に手一杯で火器管制まで頭が回らないんだろうが
なんのことはない。棒立ち同然で直進しても自動追尾のミサイルを発射するだけ
でケリがつくことに気が付いていない」
川森も焦っていた。
「自分で設計して発注させた夢の機体だが円環の中でしか性能を発揮できない。
推力があってもエリアの外に出てしまえばただのハリボテの鉄屑に戻ってしまう。
いやまて…
俺はバカか?
この機体の最大の利点を生かしていないじゃないか!」
後ろを取られているVF-RX78が突然停止する。
空力学的にありえない!
しかしそれは可能だ。可変機体のバルキリーはファイター形態からガウォーク形態
に瞬時に変形し逆噴射をかけた。
推力がなくなった機体は地球の重力に引かれて自由落下する。
そしてガウォーク形態からバトロイド形態に変形し着地する。
「ハハハハ!チェックメイトだ!!」
川森は照準ディスプレイに表示されたクロスポイントに
零戦が重なった瞬間
勝利を確認した。
毎秒数百発の銃弾をまき散らすガンポットに狙われて回避できるわけがない!
プッ
画面がブラックアウトする。
はたしてバトロイド形態の頭部のメインカメラが割れていた。
「なにぃぃぃ!」
その軸線上には!
バックベアードのレーザータワーに登ってスナイパーライフルを構えた
土留百代がいた!
「あんたがそれをするのは分かっていた。
それにね、バックベアードのレーザーは常にあなた達を追尾していたのよ」
「八咫こっちよ!
私に向かって突っ込んで!!」
「こころえた!!」
零戦はバックベアードの目の中心に向かって特攻する。
衝突!
バックベアードの幻影に隠されていたレーザー発振器の塔が倒壊する。
まるでサウロンの目の塔のようにゆっくりと地面に激突する。
ドガガガガ
ニューヨークのツインタワー倒壊の時のように土煙が巻き上がる。
その衝撃で空に投げ出された百代が落下する。
バササササ
黒い影が彼女を掴む。
「間一髪ね、私のガンダルフ」
「助かったぜ…百発百中のスナイパー」
「私を誰だと思っているの
目の妖怪の筆頭はこの私なんだから…」
「よくやった!
金剛、全速後退!!」
二ノ宮の命令で大和型のスクリューが逆回転する。
六万四千トンの重たい船体がゆっくりと後退してゆく。
この狭い内海に直角に停拍していた金剛が円環の一部に衝突するのに
時間はかからなかった。
木製の円環がこれに衝突されたらひとたまりもない。
木っ端みじんに粉砕された。
パラパラと外海の海面に木板が落下する。
それと同時にブロックで構成されたセルがその非現実で結合されていた継ぎ目が
ほころびてバラバラと落下する。
二ノ宮は戦艦金剛の形態が保たれているうちに階段を駆け下りる。
間に合うか…
甲板に出た。
急いで救命ボートに乗り移る。
艦橋部分が崩壊する。
この倒壊に巻き込まれると危ない。
救命ボートは海面に着水した。
電動スクリューが回り岸に向かう。
間に合うか…
川森は慌ててバトロイドの離脱プロセスを作動させた
腹部装甲が開きコクピットのキャノピーも開く。
左手に乗り、それがゆっくりと地面に触れるのを待つ。
「とんだ貧乏くじだ。
バンダイナムコ館にどうやって説明するんだ?」
現実の波が押し寄せて
統合軍の最新鋭機体はただの展示用筐体に成り下がった。
すると残った自衛隊員が川森を取り囲み乱暴に地面に押し付けた。
「まっ待ってくれ。
弁護士を呼ばせてくれ!」
「俺たちは警察じゃないんでね」
彼らは足で蹴り続けた。死なない程度の怪我はさせるつもりだ。
そしてプラネタリウムといえば…
メカギラスとバルバルゴンにのしかかられて喰われそうになる寸前
その映像は消えた。
「おっと間一髪といったところか」
たしかに今まで胸にのしかかっていた物理的圧力は消えた。
中央にあった邪神の影像も消えていた。
そもそもここに立体投影装置などあったのだろうか。
あと五年はVRゴーグルのお世話に
人類はならなければいけないんだろう。
裸眼で目視など夢のまた夢。
「マスター大丈夫ですか!」
二ノ宮がドアを開いて叫んだ。
もう帝国海軍軍服ではなく自衛隊のサバイバルスーツに戻っている。
「なんとかね…肝を冷やしたよ…」
シャツ一枚のマスターはくしゃみをした。
「乃亜君は・・・」
二ノ宮は黙ってジャケットを渡した。
「二十人の容疑者の傍に落ちていました」
「そうか…」
それを羽織った。
「鮫島兄弟は?」
「逃がしました…」
「残念だったな」
「いえ、やつらは今度は決定的な証拠を多く残しています。
二十人の容疑者も確保しましたし
言い逃れはできませんよ」
「となるとここからは六課の本来の仕事だな」
「はい、今回はありがとうございます」
「何事も経験だよ
と言いたいがもうコリゴリだ。
おれは安楽椅子探偵のほうが向いている…」
すこしむせた。
体の節々も痛い。
明後日はひどい筋肉痛だろう…
「そうですね奥さんもいらっしゃいますし」
二ノ宮は寂しい目をした。
「水木荘の連中は消えたのか…」
沈黙
「はい…
チープな言葉で嫌なんですが…
僕の心の中にいます」
涼しくほほえんだ 。
「俺の心の中にもいるぜ…」
俺も微笑み返す。
外に出た。
朝焼けが眩しい。
二ノ宮は自分のパッドのチャットを開いた。
「マスターにはこれ以上何も言わなくていいですね」
「もちろんさね」
小雪などメンバーがチャットにいる。
「もう我らと関わらせるのは酷というものさ」
「鮫島らの企みは防止できたと思いますか」
「現実レベルとリアリティレベルの低めの両方でこれだけ詰めれれば
充分かなとは総括しているよ」
「自衛隊との協力部分はどうします?」
「それはもう一段低いリアリティレベルを創ることで補完しようかね」
「それじゃあ川森を取り込んでみます。いいですか?」
「そうさねぇ充分におだててやりな」
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