第5話 ダンジョン事情

 ダンジョン…世間的には、成長する魔物の住む領域という認識だが、実際に攻略する者たちとしてはそんなものではなかったりする。

 攻略しないで放置すれば、徐々に深く広く成り手に負えなくなるし、そういうところもすでにいくつか存在している。

 例えばゴブリンのダンジョンと呼ばれるものがある。

 このダンジョン実入りはほとんどないのだが、国が補助金を出してでも間引きを行っているダンジョンだ。

 ダンジョンはコアを破壊すれば無くなるが、またしばらくすると同じ場所に出てきたり、移動して似たようなダンジョンが出てくる。

 ゴブリンのダンジョンは場所を把握して、かつ定期的に間引かないと、ダンジョンからゴブリンが外へと飛び出して、どこかしらで隠れ潜み群れを作り出すからだ。

 そのために、何処であろうともゴブリンのダンジョンは、見つけ次第間引いた上でそこを監視する目的で街が形成される。

 いくつかは管理不能地と呼ばれる場所にあるようだが、そこの場合は飛び出したゴブリンは、そこの生息魔物の餌でしかない。


 街中のゴブリンダンジョンは、どの国でも補助金が出るため。駆け出したちは、補助金のおかげで装備を借りて挑むことができ、引退者は軽く日銭を稼ぎつつ、新人たちに知識を与えること自体が教導依頼として出ているために、安定した収入を得られることになると人気である。

 そんなギルドに片足隻腕の老人がやって来た。


「あー、ちょいと受付のお嬢さん。こんな儂でも教導依頼っちゅうのは受けれるかのう」


 そういって差し出されたギルドカードには、引退者の印と元のランク当時の役割が記載されている。それを見た受付嬢は、一瞬息を吞むが極力平静を装ってこう答える。


「はい、もちろん引退された方でも受けられます。ただし評価は受けた側の冒険者がつけますので、そこはご容赦くださいね」

「いいんじゃいいんじゃ、飯が食えて酒が吞めて泊まれる所さえあればそれで十分なんじゃ」

「なるほど、そうしましたらご紹介いたします」


 そう言って老人を案内して、教導待ちの冒険者たちの所へ行く。そうして紹介されたのは、駆け出しなのかと疑問に思ってしまうような、中途半端な年齢の一団だった。着古している割に、あまり使いこまれた様子が無い装備に、駈け出せない者たちかと思いつつ、ダンジョン入り口まで移動しているうちに、何が起こっているかを老人は把握してしまったようだ。


「さて、入る前にお前さんら、荷物準備はしっかり出来ておるかの。見るからに計装過ぎるようじゃが」

「おい、爺さん教導はダンジョン低階層だけだぜ、日帰りするのに余計なものはいらんだろ」

「ばかじゃのう、儂見てわからんのか、そう思って行ったからこうなったんじゃよ」


 そう言って自分の義足をコンと鳴らす。それを見て一団はごくりと息を呑んだ。

 そのあと結局、最低限この位の準備はしておくべきだと教えられ、今日はそれだけで日が終わってしまった。

 教導自体は三日間かけてやるので後二日、翌日からはダンジョン前で集合し、荷物確認の後出発していった。

 結局ダンジョン内で野営の経験も積ませることとし、色々な過去話を参考に、面白おかしく経験を身に着けさせていった。

 そしてダンジョンから戻ると、依頼達成という事で報告会として、会議室を借りて、そこでネタ晴らしとなるのだが。


「爺さんスマン、あんたの話はためになったし騙すようなことをして申し訳なかった」

「最初にギルドを出てダンジョン前まで来た時で気づいとったよ」

「はぇ!」

「おんしらもっと、その恰好ならどたどたあるかんと駄目じゃ」


 教導員も、この老人の正体は教えられてなく、ギルドマスターが全てネタ晴らしとなったのだが。


「元最上級!?しかも斥候職!?」

「まあ、ダンジョントラップで皆飛ばされて生還したの儂だけなんじゃがな」

「その足と腕は」

「そんときにじゃな」


 受付嬢はすべて把握したうえで、あえて教導員も一階級上に行ってもらいたくて、今回の面子を選んだとのことだった。


「まあ、こんななりでもゴブリン程度を間引くのには困らんからの」

「じゃあ今回の事は全て」

「ギルマスからの依頼じゃったな、美味い飯と酒が吞みたくなって手紙を出したら、儂が呼び出されてもうたわ」


 この後この街のダンジョン教導員は、得た知識を見習いや他の教導員と共有し、出来のいい冒険者たちが量産されて行くのだが、習った者たちが全て斥候の才能を有してしまい、殆どの面子が他の町などに行って引き抜かれ、習うとパーティクラッシュが起きる教導をするダンジョンの街として、悪名が広がってしまうのだった。

 引き抜かれた者たちは、その噂をもっと煽る傾向にあるのだからたちが悪い。

 彼らの学んだことの一番の根っこになる言葉がある。

『情報は隠してこそ意味があるが、必要な情報を必要なものに伝える事こそが、生存のための第一歩』

 ダンジョンではトラップ情報は共有されるべきだが、隠しや飯の種は秘匿し、危険なものに対しては、皆で共有し対処していくことこそが、長く冒険者をやる秘訣だという話だった。

 近い未来、引き抜いたパーティのいくつもが、頭角を現してくるのだがそれはまた別のお話。

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