第13話この時間ごと、あなたが好き

「ただいま〜」


「おかえり、俺も」


ふたりの声が重なって、玄関でふっと笑い合う。


「ねぇ、これ着てみていい?」


遥がさっき買った服をさっそく着たくて、袋を抱えてリビングへ走る。

しばらくして──


「……どう? 変じゃない?」


振り返った遥の姿に、駿はほんの一瞬、息をのんだ。


「……かわいい。ていうか、似合いすぎて反則」


「え、ほんとに!? やったぁ」


その笑顔に、駿は自然と手を伸ばして、遥の髪をそっと撫でた。


「……なにそれ」


「可愛すぎて触りたくなった」


「し、しぬぅ……」


遥はソファに倒れ込みながら、クッションに顔を埋めてごろごろ転がる。


「好き、好き、好き、好き、好き!」


「そんなに連呼されたの初めてだわ(笑)」


「足りないくらいだよ! 今日1日だけで何回惚れ直したか!!」


駿は隣に腰を下ろして、クッション越しに遥の頭を軽くぽんぽん。


「……俺も、今日ずっと可愛いなって思ってた」


「だから言い方がやさしいんだってば……反則……っ」


「遥?」


「はいはい、今日も世界一幸せな彼女です! ありがとう!」


そのまま、ソファに寄り添って座って、紅茶を飲んだり、おやつをつまんだり。


テレビも音楽もない部屋に、あたたかい会話と、ふたりの呼吸音だけが漂っていた。


遥は心の中でそっと思った。


(ああ、やっぱり好きだなぁ。この時間ごと、全部)

 

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