第10話イブ、キミとワタシと、
空気が澄んでいて、ほんの少しだけ冷たい。
でも、今日はそれすら心地よく感じる。
「見て見て、あのツリー可愛くない? 星がでっかい!」
待ち合わせ場所で遥を見つけたとき、駿はほんの少し目を見開いた。
──いつもよりもテンションが、高い。
「なんか、すごく楽しそうだな」
「うん、楽しいよ。今日はクリスマスイブなんだもん!」
駿は思わず笑った。
なんだ、遥ってクリスマス好きなんだな。
そんなこと、今まで知らなかった。
ランチは人気のビュッフェ。
お互いの皿からちょっとずつ取ってシェアしたり、デザートを食べ比べたり。
遥がフォークを向けたとき、駿がそのまま食べようとして、顔が近づきすぎて二人して慌てたり──
笑いが絶えない時間だった。
「なんか今日、すごく楽しそうだね」
「え? いつもは楽しくなさそうに見えるってこと?」
「ち、違う! そうじゃなくて!」
「ふふ、冗談だよ〜」
駿がちょっと頬を赤くするのを見て、遥は内心でガッツポーズをしていた。
……今日は、ちゃんと伝える。
だから、いっぱい思い出作って、いっぱい笑って。
その先に、ちゃんと──言う。
夜。イルミネーションで彩られた並木道。
たくさんの人のなか、でも不思議と二人だけの空間のように感じられる。
「……楽しかったね」
「うん。遥が楽しそうだったから、俺もめっちゃ楽しかった」
その言葉が、遥の背中を押した。
「ねぇ、駿くん」
「ん?」
「私──」
言葉が喉の奥で詰まりかけて、それでも思いきって踏み出す。
「好き! ずっと、ちゃんと言えてなかったけど、ずっと好きだった!」
少し大きめの声で、真っ直ぐな目で。
まるで溢れて止まらなかった感情が、勢いそのままに飛び出したような告白だった。
駿は、ぽかんと口を開けたまま固まっている。
(あ、やばい。言いすぎた?)
遥が内心で焦り始めたその瞬間──
駿は数秒間黙ったあと、ぽつりとつぶやいた。
「……やばい、それ……反則」
「えっ……?」
「ずるいよ、そんなふうに言われたら、俺……」
途中で言葉を切ると、駿は遥の手をぎゅっと握った。
ほんの少し震えてるのが分かる。
「俺も、ずっと好きだった。
でも遥がまだ不安なままなのに、俺だけ先に走っちゃダメだって思ってた」
「……うん」
「でも今日、遥がこんなふうに言ってくれて、ほんとに、嬉しくて……泣きそう」
その目には、ほんのり涙の光。
でもすぐに、いつもの駿らしい笑顔が戻る。
「……泣かないけどな。せっかくのクリスマスイブだし」
「……うん、泣いてるの私だし」
「それも、うれし涙だからオッケー」
そう言って、駿は遥の手を離さずに、そっと引き寄せた。
寒さも人ごみも全部遠くに感じるほど、
そこには、やっと重なった二人の心があった。
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