第2話 全て在りし日の記憶

 破壊神は、ただ歩き続ける。その足取りは重く、しかし止まることはない。何をしようと変わらない虚無の中で唯一揺らめくものがあるとすれば、それは彼の心に残る過去の残像だった。


「何故、この力を求めてしまったのか……」

「何故、それを振るえば全てを失うことになると気づかなかったのか……」

「何故……同胞であり親友であった彼を……この手で……」


 その問いに答えはない。彼が望んだのは、全てを超越する強さであり、恐れるものなど何もない存在になる──そのはずだった。しかし、その代償が何であったかを知った今となっては、この力を持つ意味さえも分からなくなってしまった。気づけば、彼の背後には何も残らず、前方にも何も見えない。全てが消え去った世界に、彼だけが取り残されていた。


 かつて命が満ち、音や声が溢れ、自然や人工物で彩られていたあの世界に戻ることは、もう叶わない。破壊神はそれを知りながらも、ただ足を動かし続ける。彼に出来ることは、罪と孤独を抱えて虚無をさまようことだけだった。


 足元に響く音さえ、彼の耳には虚しく聞こえる。どこまでも続く荒野の上、その音が雨や風にかき消される日も、破壊神はひたすら歩き続けた。慰めも許しも得られない後悔と、茨のように絡みつく罪悪感が、彼の心身を蝕み続けていた。


 それでも彼は立ち止まらない。なぜなら、止まったところで救いはなく、終わりのない静寂が待つのみ。彼は孤独と虚無の中で何を求め、何を望むのか。その答えすら失われた破壊神は、ただ歩き続ける。

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