バイト募集、と出版社が呟いた
会社というものにつくづく向いていない、そのことは身に染みているつもりだ。電車通勤が苦手、にぎやかなオフィスも苦手なら計数も細かい作業も苦手、スケジュール管理だって……。けれど所属のない専業主婦の身分はとてつもなく心許なくて、そんな中、憧れの出版社の事務バイトの募集が出ていて、ちょっと心が踊ってしまった。
ちょうど旅行中の夫にLINEで聞いてみると、
「面接に行って条件出してみるのは、したらいいんじゃないか。あとは延長保育だね」
とのこと。まあまあ乗り気だなあ、これは。出版社の仕事が全くわからないわけではないし、アリかもしれない。
でもさ……いずれ文章で飯を食いたいというのなら、週3回の出版社の事務バイトで稼げるくらいの額は、書いて稼げるようになるべきでは?そう、もう一人の自分が囁く。下手に出版社にコネを作ろうとかするんじゃなくてさ、やっぱりストレートに書いて稼ごうよ。何の分野だとしたって、書いたものを売るべきなのでは。だって、今だって思うように公募に出せるほど書けているわけではないんだもの。事務をやっても書けるようにはならないのよ。
たとえば条件通り働けたとして、その分稼ぐならどのくらい書けばいいのか計算しよう。時給1200円×5時間×3日=18000円/週かあ……つまり普通に書き物を請け負うと週40000〜80000字か……えっ、それは無理だな?
家庭の事情を考えると、首尾よく雇ってもらえたとしてもお休みが続くのは避けられない。自分ひとりで稼げた方が、資金を自分の活動に流しやすく、時間の自由もききやすい、それは確か。
いや、経済の話を読んだらさ、お金のことをちゃんと考えなきゃって頭に、なるよね。障害年金は厳しいと思うって、通ってる病院の先生にも言われたし……失業手当だって、すぐ終わるし……。
しかし憧れの〇〇社だぞ!?事務といえどもパートタイムで関われるなら関わりたいぞ!?というミーハー心もある。社内に入ってみたい、なんて気持ちもあるし、とりあえず応募だけはしてみるかな……。皮算用をしていても、すっぱり書類でアウトかもしれませんものね。歩きながら考えよう、それでも良いはずだ。
書き物募集はネット上にとかくたくさんあるけれど、なんとなく食指が動かないのは興味のない分野である上にはちゃめちゃに単価が安いからで。自分、思っていたよりプライド高いんだなあ。正社員でものを書いていたというプライド、育児にかこつけて辞めさせられた時点で持つべきものじゃないのになあ。
なぁんて考えながら家路についていたら、乗り換え駅複数あったのに、自販機が遠かったり故障中だったりで……おりからの陽気にめちゃくちゃ喉が渇いている。昨日ちょっと水分を控えたら突然腹を壊すという憂き目にあったので、飯と水は万全に摂っておきたいところ。夫がちょっぴり遠出をしているので、専業主婦はここぞとばかり自由に羽を伸ばしている、本日はそういうわけであります。
上腕二頭日記 百瀬ひらく @momosehiraku
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