実況は解説を膨らませない

大星雲進次郎

実況は解説を膨らませない

「乙ぴえん球場からお送りしております、暗黒ズ対銀河ズの第3戦です。先の番組が30分延長になりましたおかけで、試合は進んでおります。現在六回の表、暗黒ズの攻撃からです」

 

「またもやピッチャーへのフライです。これを取ってスリーアウト。両チームともに六回終了までパーフェクトペースです。解説のスー鳥さん、今のはどう思われます?」

「バッター全てが一球でアウトになっていますよ。こういう試合も珍しい。バッテリーとファースト以外仕事をしていませんね」

「なる程、意味が分かりません」

 

「脳から腕の筋肉へ打ったパルスがピリッときましたね~。しかし、腰へのアプローチが今ひとつだね」

「なる程、意味が分かりませんが、ワンストライクです」


「今の球、おもしろい動きをしましたよ。きっとバットに当たる酸素分子の数がやや多めで、球の軌道が乱れたんでしょうね」

「なる程、意味が分かりません。これでツーアウトになりました、銀河ズ。せっかくの二塁ランナーを帰したいところですが、暗黒ズのピッチャーに抑えられています」

 

「ああ、すばらしく複雑な軌跡でしたよ。腰の回転軸と上半身の回転軸のそれぞれの捻りがですね、上手~く接線を描いていましたね。ただ腕の捻り軸だけが垂線を下ろせなかった!実に惜しい。ツーストライクです」

「なる程、意味が分かりませんが、実況は私の仕事です」


「3球目は、おっと高めのインコース」

「まるで分子間の真空を共有するようなコースでした。これは殺意ですね」

「なる程、意味が分かりません。判定はもちろんボールです」


「2球続けて同じようなコース」

「今のは……」

「なる程、意味が分かりません」


「おっと、またもやファール。既に10球目ですが粘りますね」

「ユークリッド空間的ファールですね。原点はホームベース上です」


「少し球が荒れてきましたか?」

「そうですね。相手のバッターは最近15試合の打率は3割越えで好調ですからね。まあ3割と言っても、確率に干渉できるわけではないですから、この打席も当然ながらピッチャーが有利ですよ」

「なる程、いつの間にか投げていましたね、ボールだそうです」


「打ちました。大きい!」

「しかしこの軌道、空気抵抗を無視した放物線だとしてもスタンドに届くはずもありませんよ。おや、しかし打球は追い風のおかげで意外と飛びてるね。俗に言う伸びているとか、風に乗ったとか言う状態でしょう。ただ風に押されているだけですが」

「センターフライでアウトです」


「さあ、試合もあと九回の攻防を残すのみとなりました。残念ながら後攻の銀河ズは5点を追う展開となっており、逆点勝利は望めません。ここでお帰りの際の公共交通機関のご案内です。真銀河鐵道は墓場前行き快速が20時3分の発車です。本日は負け試合のため、一斉帰宅が予想されますので、5分間隔の運転となります。テレビをご覧の皆様におかれましては、球場にお越しになっているお知り合いの方に、焦らず安全にお帰りくださいとお伝え願います」


「試合終了です。本日の試合、解説は元銀河ズの魔球投手でありましたスー鳥さん。実況は真銀河大主席卒の私、大星雲進次郎がお伝えしました。さようなら」

「さようなら」

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