カラフルアップデート

「赤って、どんなイメージ?」

「うーん、熱いかな。太陽とか、燃える炎とか。君は?」

「私の赤は甘酸っぱいの。イチゴや唇みたいに」

「唇か。確かに、キスマークとかもあるし、赤っぽいイメージかも。そういえば初めて会った時、『赤色の髪飾りをしてる』って言ってたね。もしかして好きな色だったりして」

「ふふ、内緒よ。それより青の感じ方も教えて」


「広くて底無し。海とか、遠くに見える山の影。落ち着くけど、ちょっと冷たい」

「わかる~!  私、青はガラスみたいだと思う。透き通ってて……触るとね、ひんやりするの」

「いいね、その例え。じゃあ、緑は?」


「緑は柔らかいよ。森の匂いとか、草の上で寝転んだり。今日の天気みたいに穏やかで、安心するわ」

「へぇ、僕は緑ってエネルギッシュな印象があるなぁ。新しい葉っぱとか、春の勢いみたいな」

「生き生きした色ね。確かに、そう思う時があるかも。黄色も訊いていい?」


「黄色は明るいかな。ひまわりとか、子供の笑い声。まぶしいくらい元気。あとオモチャって、やたらと黄色な気がする」

「黄色はレモンの酸っぱさが先にくるなぁ。刺激的な感じ。ピリッとするんだよね、私」

「ピリッと、ね。白も、そういうのある?」


「白は……静かだけど、全部を包み込むの。雪とか、雲の奥とか。水色が薄まって白になっていく感覚」

「僕の白はね、始まりの色なんだ。まっさらなキャンバス。なんでも描ける可能性。清潔な色」

「あなたって詩的ね。逆に黒はどう?」


「深くて暗い。夜の空とか、秘密の隠れ家。ちょっと怖いけど、なんとなく惹かれる」

「私も! 黒って落ち着くよね。みんな、眠る前に同じ景色を見てるんだなって」

「いいね。それじゃあさ、ちょっと趣向を変えてみようか。人の印象を色で例えるなら、僕って何色?」


「え、あなたは、うーん……好奇心旺盛で、やんちゃな感じ。オーディオブックとか、よく聞いてるし。そうね、オレンジかな」

「オレンジは悪くないね。じゃあ、君は紫色。優しいのに掴みどころがない」

「ふふ、なんか嬉しい。ねえ、それじゃ私の声って何色?」


「淡いピンクだね。柔らかそうで、聞くと心が軽くなる」

「ピンク! うそ、恥ずかしい! 初めて言われたかも。そっちは深い青。平坦で、力強いの。あとね、ちょっと斜に構えてる」

「……これ、確かに照れるな。僕も君も、印象と声で色が違うんだね」


「ね。こうやって色を話すと、頭の中で絵を描いてるみたいで、楽しくない?」

「楽しいよ。感じたことの積み重ねだからかな。きっと僕たちにしか見えない色、なんだろうね」

「生まれた時から色を知らなくても……周りの人に教えられてきたお陰かも」

「そういえば、君って色を感覚で捉えることが多くない? 僕なんかは、よく物とか抽象的に例えるけど」

「そうかも。色ってね、目で見るだけじゃないんだよ。たくさん触れて、豊かな香りと、音も聞いて、心で感じるの」

「んー……『色は感覚の物語』って誰かに教わった気がする。全盲の神学者だか音楽家だっけ。僕には、なんのことか分からなかったけれど」


「そんなことないでしょ。簡単じゃない。手、貸して」

「手? うん、いいよ。どうするの」

「少しはデートっぽいこともするの。こうやって……頬に触れて。ほら、体温とか、感じるでしょ」

「……あ、温かい、けど」

「これも、赤色だよ。あなたの顔も、きっと同じ色ね」

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