第4話 一等星の誓い②
家で少し仮眠してからの運搬作業、汗と埃にまみれたいつも通りの日常――ただ、今日だけは特別。ずっと頭の中で描いてきたエンジンの息吹を、聞くことができる。そう思えば、こんな仕事辛くもなんともない。むしろ、胸の昂りが抑えきれない。
「リオ、今日はやけに機嫌がいいな!」
「まあ色々あるんですよっと」
照りつける日差しの中、慣れた手つきで重い荷物を荷台に乗せ、額から流れる汗を拭う。
「いいかげん俺らのとこでちゃんと働かないか? 家族のこともあるだろ?」
「考えておきます」
急に冷めるようなことを言わないでくれ。
あんたらから見れば、俺なんてロイのところで入り浸る夢見がちな少年だろうさ。
でも、ストレイトレディーさえ復活すれば、それは夢じゃなくなる――本物の風を味わえるんだ。
「それじゃあ、お先に失礼します!」
「おう!」
◇
夜までまだ時間もあるし、ロイのところに行くのもいいけど、一旦家に帰るか。フェルのこともあるしな。
「あれぇ? リオじゃん! 珍しいなぁ今帰り?」
聞き覚えのある快活な声と共に、いきなり後ろからグイっと抱きつかれる。
背中から伝わる温かいぬくもりなんかよりも――
「リ、リサねえ――ギブ! ギブ!」
ヘッドロックを決められてまともに息ができない! こんなスキンシップのスの字もわかってない人はうちのシスターしかいない! トントンとリサねえの腕を叩き、必死に訴えるが、
「えっ? そんなに会いたかったのか! このこの~」
グググッと腕に力が入り、俺の首を圧迫していく。
違う! もっと抱きしめてって意味じゃねぇ! ギブアップって意味だ!
「しっ死ぬ!」
「あそっか、もう年頃の男の子だもんね」
リサねえは蛇のように巻きついた腕をぱっと離す。
「ゴホゴホっ! いつも唐突に技かけるなよ! 殺す気か!」
しっ死ぬかと思った……。
マジでリサねえはスキンシップと暴力を履き違えている!
「あーごめんごめん」
シスターリサ、俺含め、みんなはリサねえと呼んでいる。
俺が物心からついたときからいるシスターで、いつも面倒を見てくれた姉さん的存在だ。
「で? リサねえは何してんだよ」
「何って買い出しだよ。そうだ! 時間あるんだったら、荷物係してよ。おかずは内緒で増やしてあげるから」
「おかずって、もう子供じゃない」
「ふーん」と、いたずらな笑みを浮かべるリサねえに、俺は逃げることを諦めた。
◇
「いやー買った買った」
リサねえは満足そうに両手を広げてステップを踏む。俺はというと両腕いっぱいに紙袋を抱え、後ろを歩く。
「そういえば、箒は?」
「今日、直る予定だよ」
「へぇ~最初、あんなボロボロの箒持ってきたときはどうなるかと思ったけど、あっという間だねー」
「……」
「リオはやっぱりプロを目指すの?」
「もちろん」
「そっかぁ、でもレースって危険なんでしょ? 趣味で走るのと何が違うの?」
「うーん、稼げることかな?」
アランの走りに憧れたのはそうだけど、リサねえの言う通り、死と隣合わせのレースと違って趣味で走る分にはそれで満足できるかもしれない。でも、どうせならレースで勝って稼いで家族を楽させてあげたい。ありきたりだけど、これが今の本音だ。
「フェルとその話はしたの?」
「いや、それが――話そうにも毎回避けられちゃってさ」
「はぁー、お姉ちゃん、弟たちが女々しくて泣きそうです」
「時間が必要なんだよ」
「じれったいなぁー、そうやってずっと話さないつもり?」
リサねえの目つきから『さっさと仲直りしろ』と、嫌でも伝わってくる。
「……今日、話すよ」
「ならよろしい!」
リサねえの機嫌を損ねると殴り合いで解決しろとか、もっと話がこじれそうでたまったものじゃない。それに、
「てか、フェルとさっきの話、何の関係があるんだよ」
「大いにあるわよ。馬鹿ね」
「じゃあ教えてよ」
「――だめよ。すぐに答えを求めちゃ! いつも言ってるでしょ? うちらの家訓は進まずして道はなし――」
「挑戦してこそ道は開けるだろ? もう散々聞いたって」
「ならよろしい! でも、少し可哀そうだから、この美人で優しいシスターリサが一つ助言してあげる。あの子達にとってリオはどんな存在か考えてみたら?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
投稿ペースは月1~2話で更新していく予定です。
皆さんからのコメントや応援が執筆の励みになりますので、
よろしくお願いします。
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