第4話 一等星の誓い②

 家で少し仮眠してからの運搬作業、汗と埃にまみれたいつも通りの日常――ただ、今日だけは特別。ずっと頭の中で描いてきたエンジンの息吹を、聞くことができる。そう思えば、こんな仕事辛くもなんともない。むしろ、胸の昂りが抑えきれない。


「リオ、今日はやけに機嫌がいいな!」

「まあ色々あるんですよっと」


 照りつける日差しの中、慣れた手つきで重い荷物を荷台に乗せ、額から流れる汗を拭う。

 

「いいかげん俺らのとこでちゃんと働かないか? 家族のこともあるだろ?」

「考えておきます」

 

 急に冷めるようなことを言わないでくれ。

 あんたらから見れば、俺なんてロイのところで入り浸る夢見がちな少年だろうさ。

 でも、ストレイトレディーさえ復活すれば、それは夢じゃなくなる――本物の風を味わえるんだ。

 

「それじゃあ、お先に失礼します!」

「おう!」


 

 夜までまだ時間もあるし、ロイのところに行くのもいいけど、一旦家に帰るか。フェルのこともあるしな。 


「あれぇ? リオじゃん! 珍しいなぁ今帰り?」

 

 聞き覚えのある快活な声と共に、いきなり後ろからグイっと抱きつかれる。

 背中から伝わる温かいぬくもりなんかよりも――

 

「リ、リサねえ――ギブ! ギブ!」


 ヘッドロックを決められてまともに息ができない! こんなスキンシップのスの字もわかってない人はうちのシスターしかいない! トントンとリサねえの腕を叩き、必死に訴えるが、


「えっ? そんなに会いたかったのか! このこの~」

 

 グググッと腕に力が入り、俺の首を圧迫していく。

 違う! もっと抱きしめてって意味じゃねぇ! ギブアップって意味だ! 


「しっ死ぬ!」

「あそっか、もう年頃の男の子だもんね」


 リサねえは蛇のように巻きついた腕をぱっと離す。

 

「ゴホゴホっ! いつも唐突に技かけるなよ! 殺す気か!」 


 しっ死ぬかと思った……。

 マジでリサねえはスキンシップと暴力を履き違えている!


「あーごめんごめん」

 

 シスターリサ、俺含め、みんなはリサねえと呼んでいる。

 俺が物心からついたときからいるシスターで、いつも面倒を見てくれた姉さん的存在だ。

 

「で? リサねえは何してんだよ」

「何って買い出しだよ。そうだ! 時間あるんだったら、荷物係してよ。おかずは内緒で増やしてあげるから」 

「おかずって、もう子供じゃない」


 「ふーん」と、いたずらな笑みを浮かべるリサねえに、俺は逃げることを諦めた。

  

 

「いやー買った買った」

 

 リサねえは満足そうに両手を広げてステップを踏む。俺はというと両腕いっぱいに紙袋を抱え、後ろを歩く。

 

「そういえば、箒は?」

「今日、直る予定だよ」  

「へぇ~最初、あんなボロボロの箒持ってきたときはどうなるかと思ったけど、あっという間だねー」

「……」

「リオはやっぱりプロを目指すの?」 

「もちろん」

「そっかぁ、でもレースって危険なんでしょ? 趣味で走るのと何が違うの?」

「うーん、稼げることかな?」 


 アランの走りに憧れたのはそうだけど、リサねえの言う通り、死と隣合わせのレースと違って趣味で走る分にはそれで満足できるかもしれない。でも、どうせならレースで勝って稼いで家族を楽させてあげたい。ありきたりだけど、これが今の本音だ。

        

「フェルとその話はしたの?」

「いや、それが――話そうにも毎回避けられちゃってさ」

「はぁー、お姉ちゃん、弟たちが女々しくて泣きそうです」

「時間が必要なんだよ」  

「じれったいなぁー、そうやってずっと話さないつもり?」

 

 リサねえの目つきから『さっさと仲直りしろ』と、嫌でも伝わってくる。


「……今日、話すよ」

「ならよろしい!」


 リサねえの機嫌を損ねると殴り合いで解決しろとか、もっと話がこじれそうでたまったものじゃない。それに、

 

「てか、フェルとさっきの話、何の関係があるんだよ」

「大いにあるわよ。馬鹿ね」

「じゃあ教えてよ」

「――だめよ。すぐに答えを求めちゃ! いつも言ってるでしょ? うちらの家訓は進まずして道はなし――」

「挑戦してこそ道は開けるだろ? もう散々聞いたって」  

「ならよろしい! でも、少し可哀そうだから、この美人で優しいシスターリサが一つ助言してあげる。あの子達にとってリオはどんな存在か考えてみたら?」




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 投稿ペースは月1~2話で更新していく予定です。

 皆さんからのコメントや応援が執筆の励みになりますので、

 よろしくお願いします。

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