第八話 初めてのデート

 ロイ様を連れて川のほとりにやってきた。もちろん、お弁当と水筒は持参している。

 さて、これからどうしよう。


 「ロイ様、あちらに大きな木があります。木陰で休みましょう」

 

 大きな木の下でピクニックシートを広げる。ここなら快適に過ごせるはずだ。


 「ちょうど良いところに木がありましたね。良かった」

 

 ピクニックシートに座り、川のせせらぎを聞きながらのんびり過ごす。

 ロイ様とピクニックに来たけど、何を話していいのか分からない。こうなったら仕事の話でもなんでもしよう。そうしないと間がもたない。


 「ロイ様。少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 「良いですよ。何でしょう?」

 「ロイ様はクリフォード様と仲がよろしいのですか? 少し気になってしまって」

 

 何か考えている。難しい質問だったかな?


 「兄上との仲は普通ですね。たまに喧嘩しますよ」

 「喧嘩されるのですか? どういった理由で?」

 「『でしゃばるな』とか、『目立つようなことをするな』とかよく言われます。それが原因でいつも喧嘩しています」


 ロイ様とクリフォード様ってあまり仲が良くないんだ。私としては、クリフォード様とはもう関わりたくない。本性を知ってしまったからには、二度と付き合うことはないだろう。

 それにしても、クリフォード様は酷い人だな。目立つなとか、でしゃばるなとか、本当に何様なんだ。少しはロイ様の立場を考えたことがあるのかな。本当に最低だ。


 「酷いですね。私ならそんなこと言いません」

 「兄上は王位継承を狙っているのです。でも、父上は兄上を認めていません」

 「それは何故ですか?」

 「性格もですが、なにより人生経験が足りないからだと父上は仰っていました」


 クリフォード様が王位継承してしまったら、ヴァリアント王国は衰退の一途を辿るかもしれない。それを考えると、ロイ様が王位継承して国を動かした方が無難と言える。まあ、公爵令嬢の私が口出すことではないけどね。


 「私としては、ロイ様が王位継承された方が良いと思います」

 「僕ですか? 僕はまだまだ未熟者ですよ」

 「もし、ロイ様が国王、私が王妃になったらどうしますか?」

 

 ロイ様が目を見開いた。驚くのも無理はない。


 「僕が国王で、シルヴィア様が王妃? もしそうなったら大変なことになりますよ」

 「大変なこととは?」

 「シルヴィア様が王女になるかもしれません」


 ん? 何故、私が王女に?

 話が見えてこない。


 「私が王女ですか? それはないと思います」

 「いいえ、有り得ます。だって、シルヴィア様は王都を豊かにしようとお考えでしょう? 偉業を成し遂げたら何かしら褒美があると思います」

 「つまり、褒美として王位継承される可能性があると?」

 「はい、可能性はあります」

 

 ベネディクト国王陛下なら有り得る。私を王女にしてしまえば、王都は安泰。文化も発展して経済も成長。国民の暮らしも豊かになる。

 もしそうなったら、私は神として崇められるのでは?


 「有り得ますね」

 「そうでしょう。父上なら有り得ます」


 話が盛り上がってきたところで、ロイ様のお腹の虫が盛大に鳴った。


 「すっ、すみません!」

 「ロイ様、お話の続きはお弁当を食べてからしましょう」


 お弁当箱を開けた。サンドイッチがびっしり入っている。


 「ロイ様、アイスティーをどうぞ」

 「ありがとう御座います」


 チキンサンドをひとつ取り、ロイ様に差し出した。


 「はい、どうぞ」

 「では、頂きます」


 ロイ様がチキンサンドに噛り付いた。さて、味はどうだろう。


 「シルヴィア様、凄く美味しいです!」

 「本当ですか? 良かった」


 私もチキンサンドをひとつ取り、口に運ぶ。

 うん。なかなかいける。これは病みつきになりそうだ。


 「シルヴィア様は本当に凄いな。料理もできるなんて、本当に素晴らしいです」

 

 もしかして、ロイ様は私を王女にしようと考えている?

 もしそうなったら、私は王都を近代化させ、電化製品を普及し、経済を成長させるかもしれない。

 そして、人々の暮らしを豊かにして神として崇められる。よく考えたら最高ではないだろうか。


 「お褒めに預かり光栄です」

 

 ロイ様がサンドイッチを次々と食べている。そんなに美味しいのかな?


 「シルヴィア様、美味し過ぎて手が止まりません!」

 「遠慮しないでいいですよ。どんどん食べてください」

 

 やっぱり、ロイ様が小動物に見える。食べている姿が可愛い。


 「ロイ様。私の力作のカツサンドをどうぞ」

 「頂きます!」


 カツサンドには、からしマヨネーズが塗ってある。一番力を入れたサンドイッチだ。

 

 「このツーンとくる感じ。最高です」

 「そうでしょう?」


 サンドイッチがあっという間になくなってしまった。これは喜ばしいことだ。最後はアイスティーを飲んで一息入れよう。


 「アイスティーも美味しいです」

 「喜んでもらえて良かったです。また作りますね」

 「はい、楽しみにしておきます」


 食べたら眠くなってしまった。少し休もうかな。


 「シルヴィア様、眠たくなりました?」

 「はい、少し」

 「実は僕もです。もし良かったら一緒に眠りませんか?」

 

 食べたあとにすぐ寝るのはいけない。だけど、睡魔が……。


 「では、ご一緒に」

 

 お互い向かい合い、ゆっくりと横になった。

 

 「シルヴィア様、おやすみなさい」

 

 ロイ様に見守られながら、私はゆっくりと目を閉じて眠りに就いた。

 



 

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