第七話 デートのお誘い

 よく晴れた日。私は早朝から気合が入っていた。


 「よし、これでサンドイッチは出来上がり。あとは飲み物ね」

 

 キンキンに冷えたアイスティーを水筒に入れて準備万端。あとはロイ様が起きてくるのを待つばかり。楽しみだな。


 「シルヴィア様、おはよう御座います。何をなさっているのですか?」

 「スレナ、おはよう。ちょっとお弁当を作っていたの」

 「お弁当? 何処かに行かれるのですか?」

 「うん。ロイ様とピクニックに行こうと思って」


 本人から了承してもらっていないのに舞い上がっている。何でだろう。ロイ様が期待を裏切らないと信じ込んでいる。


 「ロイ様を起こしてきましょうか?」

 「いいえ、私が行くわ」

 

 サンドイッチが入ったお弁当箱と水筒をバスケットに入れて、ロイ様が休んでいる客間に向かう。

 連日の調査で疲れているのかな。一向に起きてくる気配がない。


 「ロイ様、シルヴィアです」


 声を掛けてからしばらくして、ロイ様の声が聞こえた。


 『シルヴィア様? おはよう御座います』

 「入ってもよろしいでしょうか?」

 『どうぞお入りください』


 障子を開けて客間に入った。

 ロイ様は……、寝ぼけた顔をしている。今起きたみたい。


 「ロイ様、おはよう御座います」

 「おはよう御座います。何か御用でしょうか?」

 「あの、今日なのですが、何か御用がありますか?」

 「今日の予定ですか? 何もありません」

 「では、私と一緒にピクニックに行きませんか?」


 ロイ様が目を見開いた。突然のことで驚いている。


 「もちろん構いませんよ」

 「良かった。では、朝ごはんを食べたら行きましょう」

 「分かりました。それでは、顔を洗ってきます」


 思った通り、期待を裏切らなかった。こんなに嬉しいと思ったのは何年振りだろう。もう嬉し過ぎて舞い上がっている。

 

 「リビングに戻ろう。朝ごはんは準備できているかな?」


 リビングに戻り、台所を確認した。

 スレナが朝ごはんを作っている。ピクニックに出掛けるのは、朝ごはんを食べて少し休憩をしてからにしよう。場所は……、川沿いの草原でいいかな。


 「スレナさん、おはよう御座います」

 「おはよう御座います。今、朝ごはんを作っていますので、もうしばらくお待ちください」


 ロイ様が私の隣に腰掛けた。

 何? この緊張感。


 「シルヴィア様、お弁当を作られたのですね。楽しみです」

 「色んな具材を使ったサンドイッチです。お口に合えばいいのですが……」

 

 私が作ったサンドイッチは、チキンサンド、カツサンド、たまごサンド、ツナサンド、ハムサンド。マヨネーズは、からしマヨネーズを使用。味見をしていないから少し不安だ。


 「大丈夫ですよ。シルヴィア様がお作りになったものが不味いはずがありません」

 「そうですか? では、楽しみにしておいてください」

 

 スレナがダイニングテーブルに朝食のおかずを並べている。

 朝食のおかずは、ベーコンエッグとスクランブルエッグとサラダ。それにクロワッサンとコーンスープが付いている。結構豪華だ。


 「ロイ様、シルヴィア様、どうぞ召し上がってください。私はサラさんとマリアさんを起こしてきます」

 「分かった。先に頂くわね」


 指定された席に着いて朝食を頂く。

 ロイ様が美味しそうにクロワッサンを食べている。スレナはやっぱり料理上手だ。でも、私も負けていない。


 「このクロワッサン、美味しいわ」

 「そうですよね。サクサクしていて美味しいです」


 コーンスープもコーンの甘みが凄く良くて美味しい。サラダも野菜が新鮮で食べやすい。スクランブルエッグも最高だ。


 「おはよう御座います」

 「マリア、おはよう。先に頂いているわよ」

 

 サラが遅い時間に起きてくるなんて珍しい。昨日、家事を頑張り過ぎて疲れているのかな。無理させないようにしないと。


 「サラ、おはよう。疲れている?」

 「はい、少し疲れが」

 「あまり無理をしないようにね。きついときは私に言いなさい」

 「はい、申し訳ありません」


 サラは完璧にしようとする癖がある。そのせいで無理をすることが多い。今後、無理をしていると感じたらすぐに休ませよう。


 「お? このクロワッサン、凄く美味しい!」

 「そうでしょう。シルヴィア様がお作りになったオーブンで焼いたの」

 「そうなのか? 本当に凄く美味しいぞ」


 マリアが夢中になってクロワッサンを食べている。そう言えば、パンを焼くためにオーブンを作ったな。こんな形で役に立つなんて思いもしなかった。

 

 「クロワッサンのおかわりはあるのか?」

 「焼けばあります。おかわりが欲しいのはマリアさんだけですか?」

 「僕もお願いします」

 「ロイ様もですね。分かりました。ちょっと焼いてきます」

 

 スレナが台所に入ってクロワッサンをオーブンで焼き始めた。良い香りがする。


 「ん? スレナ、そのバスケットは?」

 「これはシルヴィア様がお作りになったお弁当です。食べたら駄目ですよ」


 マリアがこっちを向いた。何か嫌な予感がする。


 「シルヴィア様、何処かに出掛けるのですか?」

 「うん。ピクニックに行くの」

 「良いな~。私も行きたいです」

 

 ロイ様が咄嗟に口を挟んだ。


 「マリアさん、今日はご遠慮願えないでしょうか」

 「あっ、ごめんなさい! ロイ様と出掛けるのですね。失礼しました」


 マリアが空気を読んだ。意外だ。


 「シルヴィア様、ロイ様とピクニックに出掛けるのですか? 道中お気を付けくださいね」

 「うん、気を付けるわ」


 さて、最後のベーコンエッグを食べて一休みしよう。


 「ご馳走様でした。美味しかったわ」

 「お粗末様でした」

 

 ロイ様がおかわりのクロワッサンを食べ終わるまで待っていよう。それにしても天気が良いな。雲一つない快晴だ。


 「シルヴィア様、少し待ってくださいね」

 「ロイ様、慌てなくてもいいですよ。ゆっくり召し上がってください」

 「すみません。では、そうさせていただきます」


 クロワッサンを美味しそうに食べているロイ様を見つめる。

 食べている姿がなんか可愛い。まるで、小動物みたい。


 「シルヴィア様?」

 「え? ごめんなさい!」

 

 微笑みながら見つめていたのがバレた。恥ずかしい!


 「シルヴィア様も食べます?」

 「……少し頂きます」


 ロイ様がクロワッサンを差し出してきた。私は口を開け、クロワッサンに噛り付いた。

 

 「美味しいですか?」

 「美味しいです」


 この調子でピクニックに行ったら、私はもっとロイ様のことが好きになってしまう。

 まあ、そうなってもいいけどね。

 

 

 

 

 

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