第一話 異世界転生
気が付けば、私は赤子になっていた。しかも、かなり愛くるしい女の子。父親らしき人物が泣きながら喜んでいる。
「名前は何にする?」
「シルヴィアがいいわ。アノス」
アノス? 父親の名前か。覚えたぞ。
「シルヴィアか。良い名前だな。なあ、そう思うだろ? シルヴィ」
「う~ん」
赤子だから上手く返事ができない。でも、伝わったみたい。
「シルヴィも良いと言っているわ」
「そうだな」
良い両親に恵まれて良かった。でも、魔法が使えないな。成長しないと使えるようにならないのか。ちょっと残念。
「あら、寝ちゃった。疲れちゃったのかな?」
「寝顔も可愛いな。元気に育ってくれよ」
「そうね。元気に育ってね。シルヴィ」
私は睡魔に逆らうことなく、健やかに眠った。
*
――十年後。
身も心も健やかに成長した私は、自室で魔法の特訓をしていた。
「すべての属性の魔法が使えるようになった。まあ、ステータスが上がっているから当たり前か」
転生する前に創造主様からお力添えをしてもらっているから、チート級の力があって当然だ。それより、紙に描いたものを召喚できるか、なんだけど、なんかできそうな予感がする。よし、やってみよう。
「まずは、りんごを召喚してみよう」
紙にりんごを描いた。そして――――。
「りんご、召喚!」
手の少し上あたりにりんごが現れた。味はどうだろう。
「食べてみよう」
一口食べ、味わってみる。
あれ? 味がない。
「そうか。分かった。召喚するものの特徴も書かないと駄目なんだ」
なるほど、データを書き加えることで本物にできるんだ。なら、もう一度。
「味は甘酸っぱい。そして、食べたときにしゃりっと音がなる、と」
今度はどうだろう。本物に近付いたか?
「うん、美味しい。本物のりんごだ」
召喚する前にそのものの特性や特徴、性質など詳細を書き加えれば、日本にあった機械や電化製品も具現化できるのか。でも、こんなところで発明なんかしたらお父様とお母様に何を言われるか分からない。どこか人目が付かないところでやりたいな。
「……人目が付かない場所。今のところ思い付かない」
まあ、創造できるようになっただけ良しとしよう。今後、人目が付かないところで
特訓すれば良いだけの話。頑張るぞ。
コンコン。
ドアがノックされた。誰だろう。
「誰?」
『サラです。入ってもよろしいでしょうか?』
「良いですよ。入ってきてください」
ひとりのメイドが入ってきた。年齢は私と同い年。絶賛特訓中である、私の専属メイドだ。
「失礼致します。シルヴィア様、お菓子と紅茶をお持ちしました」
「ありがとう。テーブルに置いてください」
「はい」
サラの淹れてくれた紅茶は美味しい。お菓子は町で有名な洋菓子店のもの。早速頂こう。
「では、頂きます」
やはり、有名洋菓子店のお菓子は美味しい。なんていうか、上品さが秀でている。紅茶も良い茶葉を使っている。良い香り。
「シルヴィア様、何をされていたのですか?」
「魔法の研究よ。サラも興味があるの?」
「はい、少し」
サラが机の上に重ねて置いてある魔法書に目を向けている。
私の知る限り、サラは魔法が使えない。だけど、身の回りの世話は完璧にこなせる。私としては、魔法なんて使えなくても不便ではないと思っている。
もしかして、サラも魔法が使いたいのかな?
「サラ。何か使ってみたい魔法があるの?」
「回復魔法を使えるようになりたいと考えております」
「回復魔法? ヒールとか?」
「はい、そうです。シルヴィア様はお使いになれるのですか?」
回復魔法か。やってみようかな。
「サラ、実験台になってくれる?」
「構いませんが、何かあったら責任をとってくださいね」
「分かった。では、ヒール!」
サラの体がほのかに輝いた。
「どう?」
「体が軽くなって疲れがとれました」
「成功で良いのかな?」
「はい、成功です」
初の回復魔法が成功した。各ステータスが無限だから少し力を入れただけで全回復したみたい。チートとはこのことを言うのか。凄い。
「シルヴィア様、あまり根詰めないでくださいね」
「うん。心配してくれてありがとう」
「それでは、私はこれで失礼致します。ポットなどは後程お片付けに参ります」
「うん、分かった」
サラがお辞儀をして退室した。
さて、休憩するか。
「……良い天気」
窓から差し込む日差しが心地良い。今日は本当に良い天気だ。
「ん……」
私は椅子に座ったまま、ゆっくりと眠りについた。
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