第8話 今は微かな灯火でも

 アルフと言葉を交わした若い男は、「平和だ、希望だと馬鹿なことを言う人は嫌いだよ……だけど、君たちのように綺麗事だけで終わらず、悪あがきかもしれないと分かった上でも努力をする人は嫌いじゃない。」と少し笑みを浮かべた。


 アルフは若い男の言葉に驚きながらも、嬉しそうに微笑んだ。「俺も平和や希望が簡単に手に入るなんて思っていない。だけど、だからこそ足を止めずに努力し続けたいんだ。君がそう言ってくれると、さらに力が湧いてくるよ。」


 男はアルフの真剣な表情を見て、少し照れくさそうに頭をかいた。「まぁ、俺もまだこの街を捨てる気にはなれないからな。だから、君たちが頑張るなら俺も少しは手伝ってやるさ。」


 一方、ローナと話していた少女は、街の変化について語りながら目を輝かせていた。「ローナさんたちが来る前は、ここに住む大人たちはみんな怖くて、嘘ばっかりつくと思ってた。でも、今は少しずつ変わってきてる気がする。ローナさんの言葉が、みんなの心に届いてるんだと思う。」


 ローナはその言葉に少し驚き、そして感動した。「あたしたちができることは少ないけど、それでもこうやって誰かの心に触れられたなら、それだけで来た甲斐があったわ。あなたも、これからは人を信じることを少しずつでもやってみて。きっと、もっと素敵な世界が見えてくるはずよ。」


 アビーとギルは、街の掃除をしながら住民たちに声をかけ、街を美しくすることが自分たちの心にも良い影響を与えることを話していた。最初は少し戸惑いを見せていた住民たちも、二人の姿に影響されて徐々に協力するようになっていった。


 ある住民が、地面に落ちていたゴミを拾いながらギルに話しかけた。「不思議なもんだな。今まで気にしてなかったけど、ゴミを拾ってみると、なんだか心がスッキリする気がするよ。」


 ギルは微笑んで頷いた。「そうだろう?この街を綺麗にすることは、自分たちの心を綺麗にすることと同じなんだ。自分たちの住む場所を大事にし、綺麗な景色を眺めれば、少しずつでも心に余裕ができて、他人を信じる気持ちが生まれてくる。」


 アビーもその様子を見ながら、「みんながこの街を好きになって、自分たちで守りたいと思えるようになれば、それだけで大きな変化だよね。」とギルに声をかけた。


「その通りだな。」ギルはアビーに応え、二人は共に街の掃除を続けた。


 やがて街全体が少しずつ変わり始め、住民たちも互いに協力し合うようになっていく。アルフたちの活動は、街の人々に希望と信頼をもたらし、荒んだ心を癒していく大きな力となっていた。街の人々は、彼らが去った後も自分たちで平和と信頼を守り続けるための努力を続けることを誓うのだった。


 数日後、アルフたちは次なる街へ向けて新たな一歩を踏み出した。彼らは、自分たちがここで行った小さな奇跡が、フレトス全土に広がるための最初の種となることを信じていた。

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