第4話 変わりゆく心
その日の夕方、アルフとアビーに声をかけてきた野盗が集落を訪れた。そして、男は女性に「金を出せ!」と脅しをかけた。
女性は脅しに屈することなく「この集落にはお金はありません……ですが、食事や寝床を提供することは出来ます。」と、毅然と見つめ返す。
近くで見守っていたアルフは野盗たちに語りかけた。
「ここは、街での裏切りや猜疑心に耐えかねた人々の安らぎの地なんだ。だから、ここの人たちを苦しめるようなことはやめてくれないか?もちろん、野盗ではなく一人の人間として過ごすというのであれば止めはしない。」
野盗の男は、アルフの言葉に一瞬ためらいを見せた。彼は武器を下げることなく、アルフをじっと見つめたが、その目には以前のような強い敵意は感じられなかった。彼の隣にいた女の野盗も、どこか不安げに周りを見渡し、肩を少し落とした。
「……さっきの連中か。まだこんなところにいたのか。」男は、少し苛立たしげに言葉を吐き出した。
「そうだ。ここで休息をとらせてもらっている。」アルフはまっすぐに男の目を見据え、言葉を続けた。「俺たちもこの国で多くの辛い経験をしてきた。でも、この集落は違う。ここでは、人々が互いに信頼し、助け合っている。お前たちも、本当はそんな生き方をしたいんじゃないのか?」
男はその言葉に反応せず、無言のまましばらく考え込んでいた。一方、女の野盗は少し戸惑いを見せながら、男に小声で何かを囁いた。アルフは二人の様子を見ながら、さらに説得を続けることにした。
「もし、お前たちがここで少しでも休みたいと思うなら、誰も追い出したりはしない。食事もあるし、寝床だって用意してくれる。ただし、この集落を脅かすなら見過ごせない。それだけを守ってくれれば、ここで穏やかに過ごせるんだ。」
集落の住人たちは静かに見守っていた。女性は依然として毅然とした態度を崩さず、男の返事を待っていた。野盗の男は、しばらくの沈黙の後、武器を下ろし、深いため息をついた。
「俺たちは、生きるために奪うことしか知らなかった……。それが、この国で生き抜く唯一の方法だと思っていた。だが、お前の言う通りかもしれない。俺たちも……普通に生きたいんだ。」
男の声には、疲労と諦めが滲んでいた。彼は集落の女性に目を向け、力なく頷いた。「金はいらない……俺たちに少しだけ、休む場所をくれないか。」
女性は優しく微笑み、静かに言った。「もちろんです。あなたたちもきっと、この場所で安らぎを見つけることができるでしょう。」
女の野盗も、安堵の表情を浮かべて武器を下ろした。彼女は男の腕に手を置き、「ここでしばらく、静かに過ごそう」と優しく囁いた。
アルフとアビーは、この瞬間を目の当たりにして、胸の中に暖かいものが広がるのを感じた。フレトスの荒んだ地にも、少しずつ希望が芽生え始めているのかもしれないと感じたのだ。
その夕方、野盗たちは集落の人々と共に食卓を囲み、久しぶりに穏やかな時間を過ごした。かつては奪うことしか知らなかった彼らも、少しずつ人間らしい心を取り戻しつつあった。アルフとアビーは、彼らがこの集落で新たな人生を見つけられることを祈りながら、夜空を見上げた。フレトスの空には、ほんの少しだが、確かに希望の光が輝いていた。
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