第56話


 舶来衆の陣を焼き払って、開戸の軍が駆け付ける前に、僕らは大急ぎで戦場から引き上げた。

 もちろん、封じた妖怪達は持ち帰る。

 首と胴、四肢をバラバラに銀の箱に封じたサンドラはともかく、糸でグルグル巻きにしただけの魔剣は暴れ出さないか不安だったが、直接手を触れなければ、誰かが操られる事もなく、魔剣はピクリとも動かない。


 サンドラと魔剣は、このまま都に運ばれて神祇官に引き渡されて、消滅、或いは封印させられるだろう。

 結局、僕はサンドラが一体何を知ってて、何を考えていたのか、わからないままである。


 妙に執着心を向けられた気はするけれど、その理由もわからない。

 それから、戦いにも幾らかの違和感を感じてた。

 別にサンドラが本気で戦ってなかったとは思わないが、彼女が人間を格下だと見て、慢心していた以外にも、どこか勝敗に頓着してないように見えたのだ。

 ……言い方は難しいんだが、まるで自分の生き死にが、どうでもいい風に思えてるんじゃないかって。


 僕はサンドラと三度遭遇し、戦ったが、そのいずれでも彼女は、僕の攻撃を敢えて受けてた節がある。

 それは無類の回復力を誇るからこそ、それを見せ付ける戦術ではあるのかもしれないが、そのお陰で僕は隙を作って逃げられたり、今回は勝利できたんだと思う。

 勝利した今だからこその感想だが、何だか加減をされたようで釈然としなかった。

 幾ら回復するといっても、サンドラは攻撃を受ける度に痛みを感じてる様子だったのに、……何故?


 以前に聞いた、大蜘蛛様の長き無聊の慰めにって言葉を思い出す。

 サンドラにとっては、神武八州の侵略も、忍びとの、僕との戦いも、そしてその勝ち負けすらも、単なる無聊の慰めだったのだろうか。


 考えても答えは出ないし、もうそれを確かめる機会もない。

 舶来衆を率いる海外の妖怪達が神武八州を侵略しようとしているというのは、あくまでこの地の人間から見た彼らの行動だ。

 本当にそうなのか、何の目的があってそうするのかは、わからないままに戦ってる。

 先代の頭領は、舶来衆が三猿忍軍と組んで浮雲の里と戦った目的は大蜘蛛様だと言ってたから、もしかしたら何か心当たりがあったのかもしれないけれど。


 だが、それも恐らく不明のままに、今回の戦いは終わるだろう。

 浮雲の里は先代の頭領や上忍達の仇を討てて面目を果たし、以降は都に戦いを委ねる事となる。


 攻めの切り札であったサンドラを失った舶来衆、及び開戸の国の軍は、他国への侵攻に大きく遅れが出る筈だ。

 場合によっては、今攻められてる蒼明も、滅びずに助かるかもしれない。

 しかし既に大国となってる開戸の国を潰すのは、幾ら都が動いたとしても容易な事じゃないと思う。


 戦いはまだもう暫く続くし、浮雲の里も都からの指示でそこに加わる可能性はある。

 ただそれは軍や法衆の補助としてであり、戦いの主役ではなくなるだろう。

 これより戦場は、忍びが活躍できる陰ではなく、光が当たる場所へと移るのだ。

 光が当たる場所の方が、流れる血はより凄惨に目に入る事になるけれども……。



 そして、それから一年が過ぎ、僕は十七歳になった。

 先代の頭領や上忍達の仇であるサンドラを討った功績と、気、法力、呪力の三つを混ぜ合わせて使う忍術の会得により、僕は上忍となり、頭領の片腕として働いている。

 ただ、どんなに実力があっても特例としてなれるのは一代限りの上忍……、だった筈なのだけれども、もしかすると僕は、他の上忍と同じく家を構えて代々その地位を継がせる事になるかもしれない。

 というのも、浮雲の里からは、近頃一つ上忍の家が消えたばかりだから、その穴埋めが求められているのだ。


 正直、上忍として家を構えるなんて、僕は考えてもなかったし、この身には不相応なんじゃないかと思ってしまうけれど……、でも僕は、恐らくこの話を受けるだろう。

 何故なら一代限りではなく、家を構えた上忍となると、里の差配に加わる立場となる。

 実力を示した頭領の里内での支持は高いが、それでも行おうとする改革には反対も多い。

 人は、長く当たり前だったものを、簡単には変えられないし、捨てられないから。

 だが僕が里の差配、つまり里の中での政治に加わるようになれば、その改革を直接支援できるようになる。


 あぁ、もちろん家を構えるとなると、婚姻したり、後継ぎが、なんて話も出るんだけれど、……まぁ、その、婚姻はした。

 相手は、茜だ。

 しかも、驚いた事に、僕は茜から口説かれて、婚姻を了承してる。

 いや、正直、前世の感覚が幾らかでも残ってる僕は、十代で婚姻は早いんじゃないかなんて、日和った事を考えていたんだけれど……。


 三猿忍軍が滅び、舶来衆との戦いも主役が別に移った事で、茜も忍びを引退し、子を産む事を求められたらしい。

 そしてその相手として茜が選んだのが僕だ。

 理由は、僕が相手だったら、引退しても忍術の研究、鍛錬を許してくれるだろうし、そうする事で僕を支えられると思ったから。


 そう、かなり打算的なんだけれど、でもそんなものだと思う。

 僕も、彼女が別の男のところにいって、窮屈な生き方するのは嫌だったので、迷う事なくその話を受けた。

 最も気心の知れた異性だし、恋心、愛情とまではいかずとも、やはりどこか、慕わしくは思っていたのだ。

 多分、茜が僕の負った傷を手当てしてくれた、あの日から。


 上忍として家を構えるなら、伝える家伝の秘術が必要になるけれど、そこは苔玉が僕の子孫と契約をしてくれるなら解決できる。

 いや、そうでなくとも、僕と茜が協力すれば、秘術の一つや二つは用意できる自信があった。


 結局、僕はもう、里を抜けるような事はないだろう。

 だって、今の僕には、抱えてしまった、捨てられないものが多過ぎる。

 もしかすると、いや、確実に、この捨てられないものはこれからも増え続ける筈だ。


 そして僕は、その抱えてしまって捨てられないものを守る為に生きる事に、納得し、満足もしているから。

 浮雲の里のアカツキとして、これからも生きていく。


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生まれ変わったら、そこは忍びの里でした(転生忍者奮闘記) らる鳥 @rarutori

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