第54話


「口寄せ、子蜘蛛飛散」

 以前にも一度見た頭領の口寄せで、狙う陣にサンドラがいる事を確認してから、襲撃は始まった。

 もしかすると、この口寄せでサンドラはこちらに気付くかもしれない。

 前回、サンドラがあの場所に現れたのは、この散った子蜘蛛、無数の妖怪の気配を、サンドラが敏感に感じ取って興味を持ったからじゃないだろうか。


 つまり僕らが上忍に追い付いたから、サンドラを招き寄せたって事になる。

 じゃなきゃ、強者や名のある者を狙うというサンドラが、あの上忍の相手をしにわざわざやってくるとは思えない。


 だから今のこの行動も、サンドラに自分達の襲撃を教える事になるかもしれないが、……どうせ襲撃が始まればすぐに気付くのだ。

 サンドラのような存在を相手に奇襲は無理だと開き直れば、重要なのはその位置の確認だと僕と頭領の認識は一致した。

 頭領が指を差したのは、陣の中でもひときわ目立つ天幕の一つ。


 ……あそこか。

 なんとも彼女らしいなって気がした。


 サンドラは間違いなく敵なんだけれど、二度、顔を合わせて、それからここ暫くはずっと彼女の事を考えてたから、そうなると不思議と親しみすら感じる。

 もちろん、僕のサンドラを討ち取るって意思は変わりないし、あるいは逆にここで返り討ちにされるかもしれない。

 でもそこに憎しみがあるって訳じゃなくて、多分これが、因縁って奴なんだと思う。


「行動開始」

 今回、始まりを告げるのは頭領じゃなくて、僕の合図だった。

 決められた役割に従って、忍び達が一斉に動き出す。


 四十名の半数、二十名の役割は、サンドラじゃなくて他の戦闘員の相手だ。

 物資の集積所や天幕、陣等を燃やし、状況を混乱させて戦闘員をかく乱する。

 魅了の度合いが浅い指揮官を狙って殺し、舶来衆の部隊を機能不全に陥らせる。

 その間に、僕や頭領を含む残る半数が、サンドラを仕留めるのだ。


 これまでの戦いで、舶来衆から奪った火薬を使って作られた爆裂玉。

 要するに投擲用の爆弾が、忍び達の手で陣に投げ込まれた。


 半数が戦闘員を相手してる間に、サンドラがいる天幕に迫った残る半数は、

「火遁」

 僕の指示で一斉に火遁、火行の忍術を天幕に向かって放つ。

 三人組で使う娑三華や、追尾性の高い火遁の術である狐火、

「口寄せ、蜘蛛火」

 それから頭領が口寄せした数百匹の燃え盛る蜘蛛に、僕が使う白い炎、銀倍火。


 並の妖怪なら一瞬で焼き尽くすだけの火力が天幕を包み、しかし翻った燐光に切り裂かれて、消えてしまった。

 炎を切ったのは、姿を現したサンドラが手にした、一本の剣。

 この国で使われてる刀じゃなくて、形や装飾、全てが舶来の品であると主張するようなブロードソード。


 ……なんだ?

 あの程度でサンドラを仕留められない事はわかってたけれど、あの剣は何か妙だ。

 胸の疼きが、何時もより激しい。


 まさか、こいつも妖怪か!

 舶来衆の幹部はボスも含めて四人。

 俗楽の花からの情報ではそうなってたけれど、それは人としての姿を持って活動してるのが四人って意味である。

 他に、人の姿を持たない、或いは活動してない妖怪が舶来衆にいたとしても、俗楽の花の情報網に引っ掛からないというのは、十分にあり得る話だった。 


「あの剣も妖怪だ。何をしてくるか、わからない。注意を!」

 僕が警告の言葉を発すると、こちらを見たサンドラと目が合う。

 そして彼女はニヤリと笑って、

「やっぱりアンタか。相変わらずいい勘、いや、いい目をしてるね。もしかしたらアンタが……、まぁ、捕まえてみればわかるか。月の暗い日に、わざわざ備えをして待ってたんだ。楽しませてくれなきゃ、今日は全員ぶっ殺すよ」

 そんな言葉を口にする。


 随分と僕を買ってくれてるみたいだし、何かを知ってるような口ぶりだけれど、今はもう、のんびりと会話を楽しむような時間じゃない。

 僕に注意が向いてる事を好機と見た忍びが数人、袖から苦無や手裏剣を取り出して、四方から投擲する。

 サンドラだけを狙うのではなく、大量の投擲武器で辺り一帯を、つまり面で攻撃し、回避を困難にする投擲の連携技。

 しかしサンドラは、そちらを全く見る事なく、僕から一切視線を外さずに片手で剣を振るい、……いや、まるで手にした剣が勝手に動くかのように、飛来する苦無や手裏剣を叩き落とす。

 そしてそのまま、剣がお返しとばかりに投げられて、ズンッと、一人の忍びの胸を貫く。


 ……折角の武器を手放した?

 いや、あの剣が妖怪だとするなら、その行動の意味は、

「乗っ取られた。動くぞ!」

 サンドラの両手を開ける為、自分が動ける新しい体を欲したのか。


 僕の言葉に、周囲の忍びが、胸を貫かれた忍びから距離を置く。

 胸を貫かれた忍びは、自分の胸の剣を引き抜き、それを僕らに向かってスッと構える。

 西洋の剣なんて、触った事もない筈なのに、その構えはまるで達人のように。

 魔剣って言葉が、僕の頭を浮かぶ。


 だが剣を構えた忍びを上から押し潰すように圧し掛かったのは、以前にも一度目にした事がある巨大蜘蛛。

 確か頭領は、それを鬼蜘蛛と呼んでいた。

 体長が五メートル、いや、以前に見た時よりも一回りか二回りは大きくなってるその巨体に圧し掛かられては、幾ら剣技に自信があってもどうしようもなく、剣を構えた忍びは大きく跳び退って押し潰しから逃げる。


「アカツキ、こちらは任せろ」

 声に、そちらに視線を向ければ、その巨大蜘蛛、鬼蜘蛛の頭の上には頭領が立っていた。

 しかもその腕や背、頭部には、恐らくそれも大蜘蛛様の眷属なのだろう蜘蛛が張り付いていて、まるで頭領自身が妖怪と化したかのような異形を成している。

 どうやらあれが、頭領が本気で戦う時のスタイルらしい。


「身体を壊しても次の身体を乗っ取ろうとする筈です。折ってください」

 頭領の実力がどれ程なのかを、僕は知らない。

 敵である剣の妖怪の実力も、同じくだ。

 だけど、……頭領がやるというのなら、僕にそれを止める事はできないし、今はそんな余裕もないから。


 頭領を信じて、僕はサンドラを討つしかないだろう。


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