第53話


 そして遂に、僕らがサンドラの討伐に動く日がやってきた。

 ただ、この日の為に積み重ねた準備が、完璧かどうかはわからない。

 何しろこの手の準備なんて、積み重ねれば積み重ねただけいいのだから、多分、完璧なんて存在しないのだ。

 でも絶対なんて言葉は使えないけれど、サンドラを倒せる自信はあったし、何よりこれ以上は時間が足りなくなる。


 伝え聞くところによると、都は着々と舶来衆、及び開戸の国を潰す為に動き出してて、舶来衆と開戸の国もその動きに気付いたのか、頻繁に周辺国への侵攻を繰り返してるという。

 もう、大義名分を用意する事すらなく、一方的に宣戦布告し、周辺国へ攻め込み、滅亡させているそうだ。

 本格的に都が動く前に、少しでも敵を減らしておこうと言うかのように。

 その無法な行動が都では問題視され、舶来衆や開戸の国を潰す方向で意思統一が進んだというのが、少しばかり皮肉だけれど。


 まぁ、なので僕らが想定していたよりも、都の動きは早い。

 今、ここでサンドラの討伐に動かなければ、僕らに機会は訪れないだろう。


 討伐隊の人員は、四十名。

 その中には頭領も含まれている。

 これに関しては反対意見も多かったが、何しろ里で最も強い忍びは頭領だ。

 頭領を加えるか加えないかで、討伐の成功率が大きく変わるんだから、これはもう仕方なかった。


 他は上忍は加えず、中忍と下忍から精鋭を選抜してる。

 上忍を加えなかったのは、前回のように土壇場で意図の異なる指示を出されると困るから。

 もちろん、他の上忍があの暴走した上忍のように愚かな訳ではないとは思ってるけれど、念の為に不確定な要素は少しでも排除したい。


 そしてその全員が銀製の武器を持ち、ついでにサンドラを殺し切れなかった場合の封印の道具、銀の箱も用意して、僕らは月齢を計算しながら里を出立した。

 サンドラの居所は、変わらず届く俗楽の花からの情報で掴めてる。


 尤も、サンドラも前回の戦いで浮雲の忍びが自分を狙ってる事は何となく察してると思うから、月が満たない時期を、無警戒に過ごしてはいないだろう。

 僕らの準備が、彼女の警戒を越えられるか。

 討伐の成否はそこに掛かってた。



 里を出立した僕らが向かうのは、蒼明という名の国。

 あれから、静馬の国に加えて二つの、決して弱くも小さくもなかった国が、地図上から名前を消してる。

 そして今では、蒼明が広がった開戸の国の隣国となって、侵略の対象となっていた。


 とはいえそんな事は、僕らにとってはどうでもいい。

 国が幾つ滅んで吸収されようが、最終的に開戸の国が潰れれば、都が功の合った者に土地を分配して、新たな国が興るだろう。

 もしかするとそれは、以前の名前を使った国になるかもしれないし、違う名前の国になるかもしれない。

 だがいずれにしても、最終的には帳尻が合う。

 もちろん、その激動に巻き込まれる現地の住人達はたまったものじゃないだろうし、その事には幾らか同情もするが、結局のところ、僕らにとっては他人事だ。


 僕らにとっての関心は、今は蒼明を攻める軍の中に、ターゲットであるサンドラがいるという事のみ。

 名の知れた武将が一人、サンドラの手に掛かって死んだという話も聞いてるから、蒼明の命運も尽きる直前といったところだろう。

 もしも僕らの動きが間に合えば、或いは蒼明の国が助かる可能性もあるのかもしれないが、それを救う為に急ごうって気持ちは、今の僕達には少しもなかった。

 誰かを、或いは国を助ける事よりも、僕らは自分自身の未来をより良い物にする為に、サンドラの首を獲る。


 さて、目立たぬよう、複数の班に分かれて街道を移動した僕らは、蒼明の国に辿り着く。

 蒼明は開戸の国から幾らか北に行ったところにある山国だ。

 尤も山国といっても六山の国のように、産業が何もない弱い国という訳ではなく、山から得られる恵みとそこから流れ出す長い川を使った水運で、それなりにではあるが発展した、国力のある国だという。

 そして山国である為、国の守りはかなり堅かった。


 本来なら、幾ら相手が強くてもそう簡単に負けるような国ではないんだけれど、それでも僕の予想通り、開戸の国の軍と舶来衆は、蒼明のかなり奥まで攻め込んでいる。

 それはサンドラが蒼明の将を討ち取った事も大きいだろうが、舶来衆の使う銃の影響も小さくはないだろう。

 もしかすると、都が動いて開戸の国や舶来衆が潰された後も、銃だけはこの神武八州の地に残って、これからの戦いの形を変えていくかもしれない。

 銃は練度の低い兵でも、忍びを殺しうる武器だから、個人的には消えてなくなってしまって欲しいのだけれども……。


 幸いだったのは、山国である蒼明では大軍が纏まって動く事は難しく、開戸の国の軍だけでなく舶来衆も、幾つもの集団に分かれて陣を張ってた。

 つまり、サンドラの周囲にいる兵の数も分散していて少ないという事だ。


 今夜の月は、右が新月、左が三日月。

 移動の最中にも接触してきた俗楽の花からもたらされた情報で、サンドラがいる陣がどれなのかも、今の僕達にはわかってた。

 サンドラが単身で居てくれるなら、昼間に襲撃をするのもありだったんだけれど、そんな都合のいい事はあり得ないから、他の兵の目を躱す為、僕らは日暮れを待って夜襲を仕掛ける。


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