裏路地

「で?どうする気だ?」

第一学区の大通りを歩きながら、多朗は小声で尋ねてきた。

「分からない。そもそも、花蓮さんの依頼通りに事が進むとも限らないから。しかも、花蓮さんの話からあの人は何か組織的な犯罪に関わっている可能性が高い。」

「じゃあ、なんで引き受けたんだ?もしかして、花蓮さんに惚れたか?まぁ花蓮さんは可愛いからな。」

僕の横腹を肘で小突きながら聞いてきた。僕は花蓮さんが好きなのだろうか。深く考えてみるが、胸が少し変な感じがするだけでなんともない。

「まぁ、ほっとけないから、かな。それ以外に理由はないよ。」

「そうか?」

多朗は少し怪訝な顔をしていたが少しだけ肩をすくめた。

「そんなことより、これからどうするつもりなんだ?」

多朗は前を向きながら尋ねた。

「そうだなぁ。まずは劇団の人に話を聞くべきじゃないかな?」

「そうか、なら、まずは中央劇場に行かないとな。」

これからの動きについて相談しながら歩いていると、

「きゃーーーーーーーーーーー。」

裏路地のほうから悲鳴が聞こえた。

「多朗!助けに行こう!」

そう言い残して、僕は悲鳴が聞こえた方向に走り出した。

「おい!っちぃ!お前はそんなに強くないんだから我先に走り出すな!って尼子さんに言われているだろうが!」

後ろでそんな言葉が聞こえるが、多朗はちゃんと付いて来てくれている。

走り出していくうちに誰かが争っている声が聞こえてきた。

「表の人間がこんなところに来るからこんな目に会うのさ。」

「兄貴、あっちの女は上玉ですぜ。どうします?」

「ひっ。」

「妹に手を出させないぞー!」

「うわっ!向かってきやがった。タフな野郎は嫌いじゃないぜ。来いよ!」

悪漢二人に男女が襲われているらしい。男のほうはすでにボロボロな感じがする。

角を曲がって、声の発生源を発見した。

一人の男がもう一人の男をボコボコのギタギタにしていた。

「おい!そこでなにをしている!」

とっさに叫んでしまった。

すると、殴っていた男が振り向いてこちらを見た。

「お前は裏では見かけない顔、、、ちっ!ずらかるぞ!」

「兄貴!なぜです!兄貴なら数が増えても問題ないでしょう?」

「ばかやろう!あいつらは悲鳴を聞きつけてやって来た奴らだ。こいつらみたいに裏に入ってきた奴らじゃねぇからこんなことはしなくていい。それにこいつらは小原のとこの奴らだ。これ以上痛めつけて小原に恨まれるのは勘弁だ。」

そう言って、男は闇の中に消えていった。

もう一人の男は少しポケーとしていたが急に

「そういうことか!さすが、兄貴!」

と叫んでから男の後に続いて闇に消えていった。

男たちが消えたのを確認したあと倒れている男の人に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「君たちは?そうだ!妹は無事かい?!ごほっがほっ!」

「無事です。安心してください。」

「そうか。」

「兄さん!」

男の人は安心して気が抜けたのか気を失ってしまった。

「多朗!」

「安心しろ。救護委員会に連絡しているから大丈夫だ。」

多朗はそう言ってこちらに駆け寄ってきた。

「素人でもこれは酷いな。相手は殺す気が無かったとしてもこんなに傷や打撲がある。下手をすると肋骨にひびが入っているんじゃないか?」

自分の鞄を枕代わりにして、男の人を寝かせながら多朗は呟いた。

「兄を助けてくれてありがとうございます。」

「私は、、「救護委員会よ!」

女の声が遮られ、長身の女装男が乱入してきた。

「あら!これはこっぴどくやられたわね。傷の付き方から赤オーガにやられたわね。担架で運び出しなさい!丁寧にね!確実に肋骨は折れているから!」

白い布に身を包んだ救護委員がてきぱきと男の人を担架に乗せて運んで行った。

「呼んだのは?そう、貴方ね。貴女は身内ね。まぁ三人ともこちらに来なさい。事情を聴くのと病院に行くわよ。」

そう言って、長身の女装男は歩きだした。

僕たちは遅れないように少し小走りで付いていった。

僕たちは一分もかからずに裏路地から抜け出すことが出来た。

「さぁ、乗りなさい。」

そう促されて、僕たちは救護車に乗り込んだ。

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