不遇の令嬢に捧げるカルテ
染井雪乃
第一章 消えた彼女の痕跡を探して
1.夢のなかのカルテ
僕は疲れているのかもしれない。夢のなかでまで、こうして誰かを診察しているのだから。
それにしても、妙な格好の患者だ。まるで世界史の教科書に出てくる貴族の女性だ。元は値の張る品であっただろうドレスを着ているが、ドレスの状態はよくない。単純に古いのだろうが、どことなく冷遇されている印象を受ける。服装から読み取れることは多い。装いは残酷なまでに患者の置かれた環境を示す。
アメジストを思わせる紫の瞳、ゆるくウェーブする薄茶色の髪、気品はあれど自信のなさそうな雰囲気、何かを耐え忍ぶがごとき表情の乏しさ。
患者はアメリアと名乗った。年齢は十五歳。成人まで二年ほどらしい。
血液検査の結果を画面に表示し、僕は目を見張った。重篤な中毒症状だ。今すぐ処置をしなければ彼女は助からない。いや、その前に、こんなとんでもない状態で椅子に座っていられるはずがない。
これは夢だ、現実ではないとわかっていながら、無視できない異常を検知する。なぜ、彼女は平気なんだ?
改めて彼女を見つめると、何でもないことかのように礼儀正しい返事があった。
「先生、わたくし、もう先がないのでしょう。よかった……これで、やっと、呪いからも、結婚からも、絶望からも逃れられます」
この上なく安らかに、可憐な花そのものの笑顔を浮かべ、そのまま、彼女――アメリアは崩れ落ちた。
彼女を受け止めようと手を伸ばしたが、空を切るばかりだった。
<アメリアのカルテより以下抜粋>
患者氏名:アメリア
S:
O:血液検査施行。
重篤な中毒症状を認める。
A:薬剤の多量摂取による重篤な中毒症状が疑われる。
突然崩れ落ちた原因は不明。
P:中毒症状の緩和を行う。
並行して倒れた原因を精査。
主治医:
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