みんな大好きコリスクッキー
教会にやって来たトーリは、祭壇に行くとマジカバンから取り出した大きな袋を置いた。がさりと音を立てた紙の袋には、可愛らしいリスのマークの判が押されている。
これは、木の実マスターであるヘラルの店で販売されている『お徳用コリスクッキー』なのだ。
現在このミカーネンダンジョン都市で人気の菓子なのだが、トーリは発案者の特権で予約注文ができる。口コミで広がったこのコリスクッキーの売れ行きは大変良く、そろそろ入手困難になりそうだ。
その大袋を、様々な果物を出した後にどん、と乗せると、すぐに祭壇から消えた。
トーリが信仰している、この世界に転生する際にお世話になった女神アメリアーナは、トーリが供える果物が大好物なのだ。どうやら他の神々と分け合って楽しんでいるらしいので、彼はいつも多めにお供えを用意していた。
(まあ、確かに今、コリスクッキーの袋が載っていたのに……消えてしまったわ)
祭壇に残ったお供物は、教会でお務めしている神父やシスターで分け合うことになっている。シスターのひとりはコリスクッキーのファンだったらしく『あれは美味しいから、神様も喜ばれたのね……仕方がありませんわ……』と、消えてしまったコリスクッキーを残念に思う気持ちをなんとか抑え込んだ。
この教会は、気持ちの良い広々としたホールにたくさんの神像が置かれていて、やって来た人々は思い思いに祈ったり神との対話を行ったりしている。
トーリは女神アメリアーナ像の前に置かれたベンチに座り、両手を組み合わせて目をつぶった。
彼の魂はいつものように、神々と面会できる白い空間に転移した。
「トーリさん、いらっしゃいませ。今日もお供物をありがとうございます」
「アメリアーナ様、こんにちは。お邪魔します」
「どうぞおかけになってね」
美しき女神が、トーリにソファーを勧める。
「今日は緑茶を用意してみたの」
「それは嬉しいですね」
「美味しそうなクッキーをいただきましたからね。緑茶に合うと思うのよ」
この女神はとても食いしん坊なのだ。クッキーを貰って嬉しそうにハミングしている。
「僕が淹れましょうか?」
「お願いするわ、ありがとう」
今はエルフだが、トーリは元々は日本人なので緑茶の淹れ方も上手く、女神は「あなたはお茶を淹れるのがお上手ね。喫茶店を開いても成功しそうだわ」と微笑んだ。
「最近は、どう?」
クッキーをコリコリと噛んで「美味しい!」と喜びながら、アメリアーナはトーリに尋ねた。
「とても順調ですよ。狩りの方もですし、友達もできて、毎日やることがたくさんあります」
「追加の加護はどうしますか?」
「いえ、このままで全然大丈夫ですよ」
「そう……」
トーリはゲームをやる時も、課金して強化し他人と競争しながら急いで攻略するのではなく、コツコツとキャラクターを育てるのが好きな性分なのだ。
「なにか必要な特殊技術があったら、いつでも言ってくださいね」
アメリアーナは調和の女神で、トーリの大きな信仰心に釣り合うように、たくさんの加護を与えたくてうずうずしているのであった。
今取り組んでいる活動や、魔物狩りについてなど、しばらく会話を楽しんでから、トーリは「それでは、そろそろ失礼します」と教会に戻ってきた。
向こうの世界に顔を出している間は、こちらの時間は過ぎていないので、しばらく祈るふりをしてから目を開けた。
「それでは、帰りましょうか」
「す」
肩で辺りを見回していたリスのベルンは『帰りましょう』と頷く。
トーリはマジカバンから新たな紙袋を出すと、近くにいたシスターに声をかけた。
「これ、とても美味しいクッキーなので、教会の皆さんで召し上がってくださいね」
「あら、まあ!」
先ほど、祭壇からコリスクッキーが消えてしまったのを見て悲しんでいたシスターは、大きな袋を嬉しそうに抱えて「ありがとうございます! 神様の祝福を!」と笑顔でトーリを見送ったのであった。
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