第24話

 「レン様……この力、どうなさるおつもりですか?」


 シーナが横に並び、そっと問いかけてきた。

 俺は手のひらを見つめながら答える。


 「決まってる。繋げるよ。波も、人も、命も」


 胸の奥に燃える熱は、もうごまかせない。

 あの日、何もできなかった俺とは違う。

 今なら、どんな荒れた海でも、進む覚悟がある。


 「この海には、まだ知らないことが山ほどある。

  けど、もう怖くない。海は敵じゃない。俺たちと一緒に生きるものだから」


 シーナは少し微笑んだ。

 その笑顔に、どこか安心を覚える。


 「では……どこへ向かいますか? この先、潮の流れが二手に分かれています」


 俺は《潮の眼》を開いた。

 波の流れを視る。

 ひとつは北東、力強い潮流。

 もうひとつは南西、穏やかに渦を巻く潮。


 どちらも俺を呼んでいる気がした。

 だけど、選ぶべき道は一つしかない。


 「南西だ。あっちには、まだ知られてない“波”が眠ってる」


 「わかりました。船を出しましょう」


 シーナの声には、一切の迷いがなかった。

 彼女もまた、俺と同じようにこの海を信じている。


 「ありがとう、シーナ。お前がいてくれるから、俺はこうして前に進める」


 「……私も、レン様と同じです。

  一緒に、新しい波を見つけましょう」


 俺は強く頷き、再び歩き出した。

 精霊の漂島の中心で得たこの力を、無駄にはしない。

 この海の未来を切り開くために、進み続ける。


 


 島を離れる準備を整えた俺たちは、小舟に乗り込んだ。

 潮霧はすでに晴れ、進むべき道ははっきりと見えている。


 帆を張り、舵を握り、俺は心を整えた。


 「出るぞ、シーナ」


 「はい、レン様」


 小舟は潮に乗り、滑るように進み出す。

 背後に遠ざかっていく精霊の島を見ながら、俺はそっと呟いた。


 「ありがとう」


 島は何も言わない。

 けれど、潮風がやさしく頬を撫でた。

 それだけで、十分だった。


 


 海は広い。

 目に見える水平線の向こうにも、さらに広がる世界がある。

 新しい島、新しい波、新しい命。


 すべてを、この目で確かめに行く。


 「レン様、次の島はどんなところでしょうね」


 シーナが問う。


 「さあな。でも、きっと面白いさ。

  だって、まだ誰も知らない波を探しに行くんだから」


 そう言って笑うと、シーナも小さく笑った。

 潮風に乗って、ふたりの笑い声が海に溶けていく。


 夜が来ても、俺たちは進み続けた。

 星の光だけを頼りに、波を読み、風を聴きながら。


 この旅はまだ始まったばかりだ。

 でも、もう心配はいらない。

 俺たちは、確かに海と繋がっている。

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