負の感情

白川津 中々

◾️

まったく気力が削がれる一日だった。


社内ではいらん諍いが起き親からは帰ってこいだのという連絡が届き恋人からは理不尽な怒りをぶつけられる。散々。これはもう駄目だという窮地に至り逃走。ビジネスホテルで寝転ぶ以外にできない状態となり数時間が経つ。こんな様ではなんともならないし、時間を無益に使っているのは分かる。しかしどうにもならないのだ。他人の感情が一定以上向けられてしまうと俺は耐えられなくなる。世ではエンパスだとかなんとかいうらしいが、一般家庭で育てば共感能力など誰しもが持ち得るものだろう。つまり周りの人間は異常であり、異常な人間が社会を構築しているというわけだ。頭がおかしい奴にも優しい世界。素晴らしい限りだがまっとうな人間の自由が奪われているのはいただけない。化物を野放しにした結果、善良たる市民代表の俺がなす術なく打ち砕かれている。保証された市民権の一部が横奪されている状況、筆舌に尽くし難く、とはいえ言論自由による意義提唱の権利行使については及び腰であり発言できず、消化できない鬱憤鬱屈を抱き死体のように転がっている。せめて、俺を疲弊させる人間を刺殺できたら。そう思わずにはいられない。全ての人間が、憎い。


呪いの中、食事も摂らず横たわっていると、メッセージが届いた。会社の人間と、母親と、恋人であった。


「問題は解決した」


「あんたの好きにできるようお父に言っといたから気にせんでええよ」


「ごめん。言い過ぎた」


俺が消えた途端に進む歯車。最初から円滑に回ってほしいものだ。今更なんだというのだくだらない。


それに、俺は知っている。

どうせまた同じような目に遭うんだと。

どうにかなったように見えて、実際にはどうにもなっていない。過去何度もこんなやり取りをしてきた。その度にこれっきりだろうと思った。終わりなどあるわけがない。同じ過ちを繰り返す。もう疲れてしまった。全部どうでもいい。メッセージを無視して、脱力。動ける気がしない。


このまま死ねたらどれだけいいか、考えるだけ考えた。どうせそれも、叶わないのに。


結局俺は無力なままだ。死ぬまで生きるしかしょうがない。ただ、この逃避の間くらいは、ゆっくり休ませてほしい。誰もいない、誰の心も入ってこないこの時間を、今はただただ、過ごしたい。

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