10年前の自分と10年後の自分

小阪ノリタカ

第1話


雨上がり、昼下がりのとある町の公園。公園のベンチに腰かけた僕は、ふと自分のカバンの中から一枚の写真を取り出した。


それは、10年前の頃の自分――

中学校の卒業式の日に家族に撮ってもらった一枚の写真。

中学の頃の僕の制服は少しぶかぶかで、笑い方もどことなく、ぎこちない。だけど、当時の僕はまっ直ぐな目をしていた。未来がまだ、まっさらだったころ。


「…10年前の自分、10年後の自分は情けないよな…?ゴメンよ…」


思わず声に出して、写真に問いかける。もちろん、写真なので答えが返ってくることはない。


だけど、そのときだった。


「その写真、なつかしいな!…確か、中学生か高校生くらいの頃――だったよな?」


後ろの方から不意に聞こえた声に振り返ると、そこには見知らぬ人――だけど、どこか見覚えのある顔の男が立っていた。


「……あなた誰…ですか?」


「見て分からなかったか…俺はな、10年後のお前だ!」


冗談のように笑い、自身を「10年後の自分」と名乗るその男。

けれど、その男の顔をよく見ると……目元のほくろの位置だったり、独特な髪型など、僕の特徴にそっくりだった。


「あなたが…10年後の、僕…?」


「うん、そうだ。俺は10年後のお前だ。ちょっとだけ未来からお前の様子を見にやって来たんだよ」


そんな馬鹿な…とその時は思った。けれど、どこか信じてしまったのは、その男の声が、僕と同じように迷っているように聞こえたからかもしれない。


「10年後の僕は……幸せ?」


僕の問いに、10年後の僕は少し黙って、それから静かに言った。


「幸せになっているかどうかは、俺の口からは言えないな。それは、お前の行動ひとつひとつで未来は大きく変わる可能性があるから。ちゃんと悩んで、考えて、自分なりに前に進みたい道を選んで歩く。俺を顔(表情)を見て幸せそうに感じたのなら、それはたぶん幸せということだ!」


それを聞いて、少し安心した。10年後の自分がそう言ってくれるなら、信じてもいい気がした。


ふと空を見上げると、虹がうっすらと架かっていた。


「じゃあ、またどこかでな…」


10年後の彼は僕に手を振って、どこかへ歩いていった。


そして、ハッと気がつけば、公園のベンチに横になって寝ていた。どうやら、僕は夢を見ていて、夢の中で未来の自分に会っていた?のかもしれない。

…けれど、僕の心のどこかが、少しだけ温かくなっていた。


そして、写真の中の中学時代の自分が、今の僕を様子を見て、少し笑っていたような気がした。



---

登場人物


主人公(現在) サラリーマン

10年前の自分 中学生(卒業式の3月時点)

10年後の自分 職業不詳(たぶんサラリーマン)

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10年前の自分と10年後の自分 小阪ノリタカ @noritaka1103

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