地道な努力がまさかの限界突破!? 特殊スキル【自動学習】で成り上がる ~お人好しな俺は、ダンジョン攻略もスローライフもどっちも極めたい~
@kashishi
1章 地道な努力と見えないスキル
第1話 汗とため息と、受付嬢
「ふぅ……っ」
背中にずっしりと食い込む荷物の重みに、思わず息が漏れる。
冒険者ギルドの喧騒の中、僕は壁際をこそこそと移動していた。依頼主から預かった薬草やら鉱石やらいろいろな素材が入った麻袋を背負っている。今日の僕の仕事は、これを指定された工房まで運ぶこと。いわゆるポーター業務ってやつだ。
冒険者ランクD。それが今の僕、カイトの立ち位置。
この世界では、生まれつきのギフトスキルが何よりも重視される。強力なスキルがあれば若くして高ランク冒険者になれるし、逆にスキルが無ければ…僕みたいに、誰でもできるような雑用で日銭を稼ぐしかない。
「おい、カイト!」
背後から、不躾な声が飛んできた。振り返ると、パーティーリーダー(と本人は思っている)のザックが、腕を組んで仁王立ちしていた。
「その荷物運び終わったら、こっちのも頼むぜ。俺たちはこれからちょっと依頼の打ち合わせがあるからな」
そう言って彼が顎で示した先には、僕が今背負っているのと同じくらいの大きさの袋が、さらに二つも転がっていた。
「えっ、これもですか? 約束では、最初の荷物だけのはずじゃ…」
「あぁ? 細けぇこと言ってんじゃねえよ。スキル無しのテメェができることなんて、これくらいしかねぇだろうが」
ザックは吐き捨てるように言うと、仲間のもとへ行ってしまった。取り付く島もない。
…まただ。いつもこうだ。僕が反論できないのをいいことに、どんどん仕事を押し付けてくる。悔しいけど、僕には力がない。スキルがないから、パーティーに入れてもらっているだけでもありがたい…そう思うしかない。
「……はぁ」
誰にも聞こえないように、小さくため息をつく。
ぐっと奥歯を噛みしめて、追加の荷物も背負い直す。ずしり、とさらに重みが増した。不思議と、重い荷物を持つのには慣れている。これも日々のポーター業務のおかげ、なのかな。
汗だくになって荷物を運び終え、ギルドに戻ってきたのは昼過ぎだった。
ザックたちの姿はもうない。きっと、僕が運んだ荷物の報酬も、彼らがまとめて受け取って、僕には雀の涙ほどの分け前しかないんだろうな。
(少しでも、訓練しないと…)
ギルドの隅にある、あまり人が使わない訓練スペースへ向かう。壁に立てかけてある、安物の剣を手に取る。鞘から抜き放ち、ゆっくりと素振りを始めた。
ヒュン、ヒュン、と空を切る音が虚しく響く。
特別な剣術スキルなんてない。ただ、こうして毎日少しでも剣を振っていれば、何かが変わるかもしれない。そう信じて、もう何年も続けている。最近、ほんの少しだけ、剣筋が安定してきたような気もするけど…気のせいかもしれない。
壁際には、僕が持ち込んだ使い古しのモンスター図鑑が置いてある。休憩がてらそれを開く。エルニー平原に生息するゴブリンのページ。特徴、弱点、主な攻撃パターン…。何度も読んでいるうちに、内容はほとんど覚えてしまった。これも、努力の成果…だと思いたい。
ちらりと周囲を見ると、他の冒険者たちが僕を一瞥して、すぐに興味を失ったように視線を逸らす。彼らの目には、きっと憐憫か、あるいは軽蔑の色が浮かんでいるんだろう。「スキル無しが、あんなことして何になるんだ」って。
(分かってるよ…でも、何もしないよりはマシだ)
自分に言い聞かせながら、再び剣を握る。
汗が顎を伝って、床にぽたりと落ちた。
小一時間ほど訓練して、僕は受付カウンターへ向かった。今日のポーター業務の完了報告をするためだ。
「こんにちは、エマさん」
「はい、カイト様ですね。依頼完了報告、承りました」
受付にいたのは、いつも通りギルドの制服をきっちりと着こなしたエマさんだった。眼鏡の奥の瞳は真面目そうで、テキパキと書類を処理していく。僕みたいなDランク冒険者に対しても、態度は丁寧だけど、どこか事務的だ。
「えっと、それで、報酬は…」
「パーティー依頼ですので、リーダーのザック様へ既にお支払い済みです。カイト様への配分については、直接ザック様にご確認ください」
やっぱり…。分かっていたけど、少しだけ胸が痛む。
「…わかりました。ありがとうございます」
「他に何かご用件は?」
「いえ、大丈夫です。失礼します」
深く頭を下げて、カウンターを離れる。
エマさんは、特に気にする様子もなく、すぐに次の冒険者の対応を始めていた。でも、ほんの一瞬だけ、僕に向けられた彼女の視線に、何か…同情のようなものが混じっていたように感じたのは、僕の考えすぎだろうか。
ギルドの外に出ると、西日が眩しかった。
今日の稼ぎは、いくら貰えるだろうか。貰えないかもしれないな…。
それでも、明日もまたギルドに来て、仕事を探して、訓練をする。
地道に、こつこつと。僕にできるのは、それだけだから。
(いつか、僕も…)
胸に秘めた小さな願いは、まだ誰にも届かない。
僕はトボトボと、常宿にしている「木漏れ日亭」への道を歩き始めた。
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