ある守刀職人の手記
イズミノユビ
序章
「このお店、何で夕焼け小焼けっていうんですか?」
客に言われて、八倖は振り返った。
「先代が付けたんですよ。綺麗な夕焼けでも見たんじゃないですかね」
「ふぅん、そんなもんですかね」
「そんなものですよ……、さて、お待たせしました。こちら、ご注文の守刀です。雪隠鉱石で作りました。刃渡り十八ギル(約二十三.四cm)で、持ち手は軽柳です」
八倖が差し出したのは、薄く青みがかった、半透明の短刀である。
「ありがとう、とても美しいな」
「恐れ入ります……、お代金、銀貨六枚です」
「あぁ」
「一、二……、丁度頂戴致します。ありがとうございました。貴方の迷いが断ち切られ、一筋の道が開けんことを」
支払いを終えて、客は店を出た。彼は生活で悩み事があるらしく、十日程前に店を訪ねてきたのだ。
ここ、ー夕焼け小焼けーは、鍛冶工房と店を併設している。制作しているもの、また売り渡しているものは主に守刀である。守刀というのは、戦闘で使用されることはなく、基本的に、その名の通りお守りとして懐に入れて持ち歩いたり、部屋に置いておいたりする、お守りを担う刀だ。その為、短刀として作られることが多い。これは世界共通ではなく、呂々大陸の火烏地方に見られる文化である。しかし最近は貿易や文化交流が盛んになり、別地方からも注文が入るようになった。
そして八倖ーー茅染八倖ーーはこの守刀を制作する鍛冶職人であった。
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