15食目 京都人が愛してやまない粕汁
京都人の冬のソウルフードをご存知だろうか。
私は、その一つが「粕汁」だと思っている。
冬になると、我が家の食卓に並ぶ汁物は味噌汁ではなく、ほとんどが粕汁だ。周囲を見ても、冬は粕汁を食べている人が多い。伏見という酒どころを抱える土地柄もあってか、粕汁は京都人にとって欠かせない冬の味わいなのだろう。
ご存知ない方のために補足しておくと、粕汁とは出汁に酒粕を溶き、根菜や魚や肉を具にした温かな汁物である。酒粕の甘い香りと柔らかなコクが、冷えた身体を芯から解きほぐしてくれる。
──さて、前置きはこのくらいにして、本題へ移ろう。
今日、私はいつもの酒屋に寄った。日本酒を一本手に取り、レジへ向かおうとしたその時だ。ふと隣の棚に目をやると、白い板の塊がこちらを呼んでいた。むんむんと漂う芳香に胸をつかまれる。純米吟醸の酒粕である。これを逃す手はない。
ようやく夏も終わり、秋の涼気が忍び寄ってきた。あれほど冷たい物を求めていたのに、気温が下がるや否や、今度は温かいものを欲する。まったく、人間とは勝手な生き物である。
今季初の酒粕を手に入れた私は、粕汁に合う食材を求めてスーパーへと向かった。
私には粕汁の“基本形”がある。
まず、大根と人参は必須。しめじもできれば入れる。余裕があればこんにゃく、油揚げ、ちくわや里芋も良い。
そして、大事なのが豚肉である。
「粕汁といえば鮭だろう」と思う方も多いだろう。実際、全国的には鮭が主流だ。私が以前SNSでアンケートをとったところ、実に七〜八割の人が「粕汁には鮭」と答えた。
だが、京都の粕汁は豚なのだ。しかも脂のしっかりついた豚バラがいい。甘い脂が酒粕と混ざり合って、これが実に美味い。それに鮭より安価で、経済的にも優れている。
京都は豚肉が好きだ。京都ラーメンといえば豚で出汁をとる。その辺りも関係があるのだろうか?
材料(二人分)
•大根(5cmほど)
•人参(5cmほど)
•豚肉(50〜70g)
•しめじ、こんにゃく、油揚げ(お好みで。今回はしめじのみ)
•三つ葉(あればなお良し)
•酒粕(60〜70g)
•出汁パック(1袋)
•白味噌(大さじ1/2)
大根と人参は短冊切りにする。ちなみに私には小さなこだわりがあって──豚汁は銀杏切り、粕汁は短冊切りと決めている。理由は聞かないでほしい。
酒粕だが、できれば酒屋さんに行って買う方がいい。スーパーで買う酒粕は正直香りも味もイマイチなものが多い。
粕汁は酒粕によって味が変わる。面白いのは、美味しい酒だからと言ってその酒粕が粕汁に合うとは限らないこと。好きな銘酒の酒粕で作ったこともあるが、結局私は伏見の酒粕で作るのが好きという結論に落ち着いた。
——伏見の酒はほとんど飲まないというのに。
作り方
1.鍋に水500ccを注ぎ、大根と人参を入れる。
2.出汁パックを加えて弱火で煮る。沸騰して1分ほどで取り出す。
3.酒粕と白味噌を溶き入れる。この時点でしめじなどを加えてもいい。
4.豚肉が厚切りならここで投入。薄切りなら仕上げの直前に入れるのがよい。
5.蓋をして、具が柔らかくなるまで弱火で煮込む。味を見て、必要なら薄口醤油をほんの少し。
──ちなみに私の実家の粕汁は、味噌を使わず全て薄口醤油で調味していた。味噌を使うとこっくりと濃厚に、醤油ならさらりと軽やかに仕上がる。どちらが好みかは、人それぞれだろう。
器に盛り、三つ葉を散らす。ネギも悪くないが、私は粕汁には三つ葉が合うと思っている。お好みで七味を振れば完成だ。私はゆず七味を愛用している。
湯気とともに、ふわりと酒の香りが立ち上る。
一口すすれば、酒粕の粒の残る舌触りが広がり、豚の脂が穏やかに溶け込む。柔らかく煮えた大根と人参は、歯に触れた瞬間ほろりと崩れる。根菜のくさみは酒粕がすっかり消してくれる。
そして──白飯が進む。いや、進みすぎる。私はつい、粕汁をご飯にぶっかけて食べてしまう。好きすぎて、たまにむせるほどに。
米で米を食べるようなものだが、ここは関西。何の不思議もない。
豚肉の粕汁、ぜひ試していただきたい。
一人でも粕汁の虜になる方が増えれば、私は嬉しい。
涼しくなれば、我が家は粕汁の季節本番。啜るたびに体が温まり、過ぎ去った夏が遠のいてゆく。少し寂しくもある。
──なのに今週末は夏日が戻るという。
いや、もう夏はいいから。本当に、もういいから。
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