第2話 黄泉への道と、呪われし刀

エクレールの家から逃げ出すようにして外へ出たイルネスは、広がる森と丘の中を適当に歩き始めていた。


「くそっ……なんで俺、こんな変態の家に泊まらなきゃならなかったんだ……」


道などわかるはずもない。地図も、案内もない。あるのは、かつてYouTubeの企画でコンビニで24時間生活をしてみたという、なんの役にも立たない経験だけだった。


気づけば、空はいつの間にか曇り、辺りは不気味な霧に包まれていた。


「……あれ、なんか雰囲気やばくね?」


草木は黒ずみ、地面からは呻くような音が響く。いつの間にか、イルネスは“普通の森”ではなく、“異界”のような場所に迷い込んでいたのだ。


そして彼の前に現れたのは、ひときわ異様な佇まいの神殿跡のような場所。崩れかけた鳥居の奥に、何かが刺さっていた。


それは、漆黒に染まった妖刀――


《邪険・夜(じゃけん・よる)》


「……なにこれ。ゲームだったら、絶対“装備すると呪われる系の武器”やん……でも、気になる……!」


そんなフラグを自ら立てつつも、イルネスはゆっくりと刀に手を伸ばした。


――ギィィィィィンッ!!!


抜いた瞬間、周囲に響き渡る甲高い音と共に、イルネスの体に黒い霧のようなものがまとわりつく。


「な、なんだこれ!? 冗談だろ!?」


彼の体を駆け巡るのは、冷たく、そして重苦しい何か。刀を握った瞬間、彼の意識に“誰か”の声が流れ込んできた。


「……我が名はイザナミ。汝、その魂、我に捧げよ……」

「うわっ!? な、なんか今、怖い声が頭に……!?」


「これ、絶対ヤバいやつだろ……」

「うっ……」


目を覚ました時、イルネスは森の中の草むらに倒れていた。

黄泉の国で体を締め付けていた黒い霧も、あの恐ろしい声も――消えていた。


「……夢?いや、違う。夢なら……」


右手には、しっかりと握られた漆黒の刀――《邪険・夜》。


「持って帰ってきてんじゃんかよおおおおお!!!」


叫びながらも、イルネスはこの異常な状況が“ただの異世界冒険”ではないことに気づき始めていた。刀の柄に刻まれた封印の文字が、時折うっすらと光る。


「これ、たぶん呪われてるってやつだよな……え?待って、これ現実世界じゃない?森?森じゃね?」


あたりを見渡せば、そこは確かにエクレールの家の裏手にある森。

……つまり、**黄泉の国から“帰ってきた”**ということだ。


でも――なぜ、邪険・夜だけが残っている?

呪いもまだ残っている?

というか、イザナミの声が……まだ、耳の奥に微かに聞こえる。


「お前は……我が刃を抜いた、ただ一人の“現世の者”。」

「やっぱ、呪われてるじゃねえかああああああ!」


叫びながらも、イルネスは思った。


(でも……この刀、なんか……すげー強そう)


小学生の下ネタ系YouTuberだった脳はすでに切り替わっていた。

この剣、もしかして使える? かっこいい? ワンチャン無双できる??


そんな軽い気持ちで、イルネスは刀を構え――


「……って、重っっ!! ぜってーこんなもん使えねーよ!!」


現実に引き戻された彼の手から、刀がズシンと落ちる。

それでも、その漆黒の刃は、闇を吸い込むような気配を放ち続けていた。

イルネスがエクレールの家に戻った時、開口一番に言われたのは――


「……それ、お前、どこで拾った?」


エクレールは目を細め、イルネスが背中に背負っていた漆黒の刀――邪険・夜を見つめていた。


「え、黄泉の国? なんか迷子になって行っちゃって……そしたら勝手に手にくっついて……」


「……終わったな、お前」


「え?」


「そいつ、**“イザナミの呪い”**付きだ。呪われた者は――」


エクレールは真顔で天を仰ぎ、そして静かに口を開いた。


「1145141919810年以内にイザナミをぶっ倒さねぇと、魂ごと呪い殺される。」


「どんな数字だよそれッ!!!」


「厳密には、一兆年ちょっとの猶予があるからまあまあ親切な部類だな」


「親切ってなんだよッ!? いやでも、放置していい感じじゃないだろこれ!?」


イルネスの左腕には、じわじわと広がる黒い痣のような文様が浮かび上がっていた。それを見て、エクレールはふむと頷く。


「……お前の体に、“イザナミの魔核”が刻まれてるな。イザナミをぶっ倒すないと呪いは解かれない。天命の加護を受けないイザナミと相対することもできねぇとイザナミと戦え。あいつらには適当に媚びでも売っておけ。」

「つまり?」


「世界一周の旅だ。」


「ちょ、軽く言うなよ!?」


「さあ旅立てイルネス。お前はもう、戻れねぇ。イザナミを倒すか、呪いで死ぬかだ」


「選択肢ぃぃぃ!!!」


エクレール「まあ加護はやるよ、俺あのババア嫌いだし」

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