切り裂く風こそカマイタチ

あたりもすっかり暗くなる時間帯。

僕と九尾は国枝財閥の倉庫建設予定地の前に来ていた。

少し待つと、依頼人である長身の男が来た。

もう一人の太った男はいないようだ。

「よくオレの連絡先がわかったな」

着いた途端に彼はそう言う。

「前金で渡された財布の中に名刺が入ってましたから。営業とかされてるようですね。」

「ふっ…。狐、お前は本気でそう言ってるのか?」

「いえ、全く」

裏サイトに依頼を出す人だ。

当然、偽装してるのだろう。

「まあいい、それよりここに黒いイタチがいるのはホントか?」

「いるかどうかはわかりません。ただ重要なことがわかるかもです。」

「わかった、それならさっさと行こう」

そう言うと、彼は建設予定地に入って行く。

僕達もあとに続くように建設予定地に入った。


しばらく歩いていると、曲がった先で物音がした。

「イタチか!?」

彼はすぐさま走って曲がり角を曲がる。

すると声が響く。

「きゃっ!!」

女の人の声?

僕達も曲がると開けた場所に着く。

そこにいたのは風切だった。

腕には黒いイタチを抱えている。

「燃町くん!?どうしてここに…!?」

彼女はとても驚いている。

「こっちのセリフだ。こんなところで…」

「女!そのイタチをどこで見つけた!」

僕の言葉は、男の怒声によって途切れる。

どうして怒っているのだろう?

「え、あ…、この子は数日前に見つけて、怪我してたから、お世話してて…」

急に知らない人間に怒鳴られたのだ。

その声は震えている。

ただ、それを聞くと男は落ち着きを取り戻す。

「そうか…。怒鳴ってすまなかったな。そのイタチはオレの飼ってるものなんだ」

「この子の飼い主…?」

「あぁ、そうだ。そのイタチの飼い主だ。そいつは行方知らずになってたもんでな、ずっと探してたんだ。」

「その…、この子を返せばいいんですか…?」

「できれば、そうしてもらいたいのだが…」

風切は少しの間、黙ってしまう。

だがイタチを見るとどこか決心したような表情に変わる。

「わかりました…。この子は返します。」

「そう言ってもらえて助かるよ。」

彼は振り返って僕達に言う。

「あんた達のおかげだ。ありがとな。あとで依頼料は渡そう」

風切はイタチを離す。

しかしイタチは風切の足に擦りつく。

「ほら、行って。あっちが飼い主さんだよ」

風切はそう言うが、イタチはキーキーと鳴き風切から離れない。

「なるほど…。かなり懐かれてるようだな」

すると男は風切に近づく。

「そうだな…、お礼をしよう。受け取ってくれ。」

「え…?」

途端に風切は倒れる。

「九尾!あいつを…!」

「落ち着け!」

僕が九尾に命じる前に、男は声を上げる。

男は銃を風切の頭に向ける。

「殺しはしねー。こいつは人質だからな」

「人質…?どういうことだ」

何を企んでいるんだ…。

「まあ、長話にはなるがおとなしくしろよ?さもないとこの女がどうなるやら…」


「オレはガイアと呼ばれる組織のもんだ。オレ達の組織はある野望のために結成されたんだが、この野望を成し遂げるとためにはある力が必要なんだ。それこそが超常的存在の力。ただ、弱いやつをいくら集めても意味がない。そこで目をつけたのがお前の横にいるその女、九尾だよ。九尾の力があればオレ達は一気に野望へと近づくこととなる。でも、問題があるんだよ…。わかるだろ?狐、お前だよ。お前が九尾と契約してるせいで、他のやつが契約することができない。そこで組織はお前を殺すことにしたんだ。安心しな、オレはその意見に反対なんだ。なぜかって?簡単なことだ。すでに契約してるやつが組織に加入すればいいと思ったからだよ。つまりだ、オレの要求はただ一つ。ガイアに来い、狐」


「質問してもいいか…?」

「あぁ、いいぜ。答えられる範囲で答えてやろう」

「昼間に僕を襲ったのは、あんたの組織か?」

「さぁーな、オレもそこまで把握はしてないんでね」

「彼女は…、風切はどうする?」

「あぁ、そうだな…言ってなかったな。この女も連れて行く」

「どうしてだ…?」

「この女には有効価値がある。現に暴れん坊のイタチも懐いてるからな」

すると男は何かに気づいたようで、顔を少し後ろの方に向ける。

「あのイタチ、どこ行った…?」

「美弧、伏せて!」

今まで黙っていた九尾が叫ぶ。

僕は声に、従い伏せる。

瞬間、昼間も浴びたような暴風が頭の上を過ぎる。

それと、同時に赤い液体が飛び散る。

正面を見ると、先ほどまで男がいた場所には不揃いな肉塊と前足が鎌になった巨大なイタチが立っていた。

風が吹き止み、僕は立ち上がる。

なんだ、こいつは…。

「カマイタチよ」

「カマイタチ?」

芸人の?とふざけてる場合ではないのだろう。

「つむじ風の妖怪よ。あの鎌のような爪は、あらゆるものを切り裂くわ」

「どう対処するのが、正解なんだ?」

「……わからないわ」

「OK、それならここはひとまず、隠れよう」

今はさっきの風の影響で砂ぼこりが舞っている。

カマイタチは僕達のことが見えてないはずだ。

だが、そんな簡単に隠れられるはずがなかった。

カマイタチは砂ぼこりを突っ切り、僕の目の前に現れる。

なんで!?いや、臭いか!

すぐさま九尾が僕の前にくるが、カマイタチによって腕を切り落とされる。

「狐火!」

九尾が炎を出し、カマイタチを怯ませる。

「今のうちよ!」

九尾は僕の腕を引いて、物陰に隠れる。

「大丈夫、九尾?」

「大丈夫よ。癒やしの炎を使えば治るわ」

そういって彼女は切られた方の腕を燃やす。

「でも、回復に時間がかかるわ。このままだとまずいわね…」

臭いで居場所はバレるだろう。

なんとかしなくては…。

…………。

「 僕が戦うよ…」

「何言ってる!?あなたが戦うなんて…!」

「九尾、僕だって戦えるんだよ?なにより君が一番わかってるはずだ」

「………わかったわ、治ったらすぐ交代するから」

「大丈夫だよ。僕があいつを仕留めるから」

僕は物陰から出る。

カマイタチは僕を視認するが、襲ってこない。

様子を窺っているのだろう。

ならば、好都合だ。

「カマイタチ、君が鎌を使うなら僕は、炎の刀だ」

超能力『キュウビノキツネ』

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