第4話

そんな俺に、誰かが突然話しかけてきた。


聞き覚えのある声にばっと目を向けると、そこいたのは紫だった。

佐原紫。


俺の、今一番気になっている人だった。



「佐原…さん?」


「あ、私の名前知っててくれたんですね」


「だって有名じゃん。うちのミスだし」


「そんなことないよ。それで、何か探してる?」



彼女は首を傾げて、もう一度同じ質問をした。


紫の手にはたくさんの本が抱えられていた。

サラサラとした長い髪と、たまにかける眼鏡がとても知的で良く似合っていた。



「別に何も」


「だってため息ついてたじゃん」


「あ、見てた?」


「うん。見てた」


「っ」



…ふわっと優しく笑った彼女に、どきっとした。



こんな風に笑うんだ。



優しくて、温かい笑顔。

だけど、とっても綺麗だった。



「俺、本読まないし」


「じゃあなんで図書室?」


「1回入ってみたかったから。そしたら本がたくさんありすぎて、何読んだらいいのかわかんなくなっちゃって」


「なにそれ。面白いね」


くくっと喉を鳴らして笑って、紫はすっと眼鏡を外した。


本当に、1回1回の行動にドキドキさせられた。



「じゃあ私の大好きな本、読んでみる?」


そう行って彼女は持っていた本の真ん中あたりにあった1冊を取り出し、俺に差しだした。



「『When I loved you』…?」


「うん」


「どんな話」


「私が唯一読んだ恋愛小説」


「恋愛…小説…」


「あ、今馬鹿にしたでしょ?」


「し、てないよ。どんな話?」


「それは読んでみないと駄目でしょ」


「………」


恋愛小説にしてはやけに分厚い本だった。


てかいきなりハードル高すぎ。

しかも恋愛小説って…。



「読めるかな」


「読めるよ、きっと」



紫の笑顔を見たら、なんとなくそんな気がしてきた。


『When I loved you』


直訳すると、“私があなたを愛していた時”。



どんな話だろう。


なぜだか早くページを開きたくなった。



「本、好きになるといいね」



そう言って俺の前からいなくなった紫。


俺はその背中を見送って、その本を受付で借りた。

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