第49話

先輩はいつになく心苦しい表情をしていた。



いつも余裕そうな表情の先輩がそんな顔をするのはちょっと貴重だ。



少しは私の言葉が、先輩に届いているのだろうか。



それなら嬉しい。すごく嬉しい。



コーヒーを飲み干してファミレスをでると、先輩は家まで送ってくれると言った。

でも私はその気持ちだけありがたく受け取り断った。


家まで走って帰りたかったから。


走って帰ってストレッチして早く寝て、明日はまた誰よりも早く朝練に行って、

次回の大会はメンバーに選んでもらえるように頑張らなくちゃならない。



浮ついた気持ちはしばらく封印しよう。


先輩が卒業してしまう前に、せめて160センチは飛べるようになろう。



かっこ悪いところは、もう見せられない。




―――――――……




夏休みが明けて1ヶ月が経った。


あの夏祭りの日以来、紫乃とはまともに話していない。


地区大会の準備で忙しいせいかと思っていたけれど、大会が終わってからも紫乃が朝練のあとに俺のところへくることはなかった。



「そういえば最近こないね、あの1年生」


「んー」


「あれれ?もしかして朝日君拗ねてる?」


「べつに」



正直紫乃をうっとうしいだとか迷惑だとか、そんな風に思ったことは一度もなかった。


自分のハイジャンを好きだと言ってくれたのは嬉しかったし、懐いてくれるのも、なんだか犬みたいで可愛かった。


紫乃は勘違いしてるみたいだけど、別に俺は年上が好きなわけでも、年下が嫌いなわけでもない。



ただ、年上の方が一緒にいていろいろ楽だったから。



「俺この間委員会で遅くまで残ってて、部活も終わってる時間だったんだけど、あの子1人でまだ練習してたよ」


「………」


「中学でハイジャンやってたときからずっと朝日に憧れてたんでしょ?」


「うん」


「あの子の動力源は、間違いなく朝日だよね~。あんなにちっちゃいのに健気で…タイプじゃないけどいい子だわ」


「そんなの、わかってる」



ただああいう純粋すぎる子は、ちょっと苦手だ。



どうやって接したらいいのかわからなくなるときがある。

ちょっとのことで傷つけてしまいそうで。



この間だって、俺にハイジャンのことを聞いてきたとき…震えてた。


あんな質問1つするのに、あんなに勇気を振り絞って聞いてくるだなんて、こっちが動揺する。

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