第28話

目の前で優しく笑う彼方の瞳が少し揺れた。

心なしか赤い気もする。


彼方のこんな表情を見るのは2度目だ…。


多分、あの時…、



――“じゃあ、俺にする?”




あの時も、おんなじ顔してた。




「ごめんっ…ごめんね彼方」


「ほんとだよ」


「だって彼方ムカつくんだもん。いつも私の先を歩いて行っちゃうからっ…」


「あはは」


「ねぇ彼方」


「ん?」


「私頑張るから、…だから今度は隣を歩いてっ…」


「……うん」


「私のためでも、他の誰のものにもならないで」


「うん」


「私のっ…そばにいてっ」


「うん――」



彼方は優しく私を抱き寄せてくれた。


そして何度も私の頭を撫でて、首に顔をうずめて小さく呟いた。




ここまで長かったなぁ、と。






ごめん彼方。


私は彼方に伝えなきゃならないことがたくさんあった。



昔から彼方の作品に惚れてたの、私。


写真だけじゃない。

ホリゾントに立つあなたの姿に、姿勢に、手に、声に惹かれてた。



自信を持ってあなたの前に立つために私はずっと、あなたの背中を追いかけてきた。


彼方には才能があることを知っている。

でも努力してきたことも知っている。

挫折を味わったことがあることも知ってるよ。


そんなとき、ちゃんと寄り添えなくてごめんね。



私が撮影に憧れてたのは、初めて彼方の名前が雑誌に載った時の作品に感動したからだってこと、彼方知らないよね?



4年も一緒にいたのに1度も素直になれなかった。


あなたの前で1度も…。



だからこれからはあなたに伝えたい。



あなたを、これからは信じたい。





「彼方っ…好き」


「っ」


「大好きっ…」


「ちょ…待っ」


「好きっ…好き」


「………」



泣きながら彼方を抱きしめる私を少しだけ離して彼方は覗き込むように私を見つめた。


私はもう涙で前が見えない。



「ふっ、可愛いのなーお前」


「私を女性の枠にいれてあげられないって言ったくせに」


「他の女にするような安っぽい優しさなんか、雪路にはあげないよ」


「っ」



そう言って笑った彼方は優しく私にキスをしてきた。


そのキスはどんどん深くなっていって、私の背中が反り返るほど彼方は入り込んできた。



そして漏れた吐息の中で、優しく呟いた。




「今度は心ごと、俺にちょうだい」






と。

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