俺にちょうだい
第22話
―――――――彼方と連絡を経ってから1ヶ月が過ぎた。
今年も終わりに近づき、年末の美容室は目まぐるしいほどに忙しかった。
忙しいことは、とてもありがたいことだった。
彼方のことを考えなくてすむし、来年もよろしくと言ってくれるお客様を見ると、撮影をやめてよかったとも思う。
1つ下の町田君は意外にも撮影のほうに目覚めたらしく、営業より撮影が中心の生活になっている。
町田君は人当たりがいいから私のように後輩に嫌厭されることもなくて少し羨ましい。
町田君から時々彼方の話は聞くし、雑誌でも彼方の名前を目にすることもあった。
彼方も頑張ってるんだなと思い、自分も頑張らなくてはと思う。
彼方は他人になっても、私の糧だった。
そして25日のクリスマス。
今日は早く営業を終えようということになって、練習もなく皆早めに帰宅した。
私は予定がなかったしちょっとだけ雑誌を読んでから帰ろうと思って、1人薄暗いサロンの中でソファーに座っていた。
ゆったりした気持ちで油断していると、突然誰かがサロンのドアを叩いた。
お客様が忘れ物でもしたのかと思い慌ててドアに駆け寄ると、そこには見覚えのある人が立っていた。
「あ…」
それはスタッフでも、お客様でもなかった。
「栄人…?」
どうして、どうして栄人が。
忘れかけてた恐怖が再び襲ってくる。
――“うざいんだよ、お前”
「よっ雪路」
「なんで栄人が…」
「カットしてもらおうと思ってさ」
「もう…営業終わってるんだけど」
「そんな固いこと言うなよー。俺たち元恋人だろー」
一体何を考えてるのこの人。
強引に店の中へ入ってくる栄人。
店内をぐるっと見回して「懐かしー、俺よくモデルできてたよね」なんて無神経なことを言っていた。
「なんなの…一体」
「なあ雪路。俺たちもう1回やり直さない?」
「…は?」
何言ってんだ。
「クリスマスに1人きりなんて寂しくない?」
「別に」
「吉倉とはもう別れたんだろ?」
「っ…彼方は関係ない」
「関係なくねぇよ」
栄人が少しずつ私との距離を縮めていく。
もう後ろには下がれなくなった瞬間、ぐっと顎を掴まれた。
「俺の後釜だったじゃん、あいつ」
「っ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます