他人になろう

第18話

それから何度か私は撮影を休んで、代わりに1個下の町田君にスタジオへ行ってもらった。


しばらくは営業に専念したほうがいいという古谷さんや店長の計らいだった。


トップスタイリストになっているにも関わらずこうして支えてもらえる立場にいれる私は本当にいい先輩や上司に恵まれていると思う。


私自身も後輩にそう思ってもらえるような存在にならなければと思い、できる限り練習会や朝練に参加して、後輩との距離を縮めた。


最初は近寄りがたい雰囲気を出していた後輩だったけれど、何度か接するうちに、向こうから質問をしてくれるようになった。



「けほっ」


「あら、雪ちゃん風邪?」


古谷さんと締めの作業をしているときに軽く咳き込むと、心配した表情で古谷さんが話しかけてきた。



「なんか昨日いらしたお客様が風邪引いてて…気をつけてはいたんですけど」


「遷っちゃったのかな?明日休みだし、今日はもうあがっていいからゆっくり休んで」


「いやでも…」


「たまにはサボることも大事。雪ちゃん真面目すぎ」


「…古谷さんはどうして…私にそんなに優しくしてくれるんですか」


「え?」



古谷さんは私の3つ上の先輩で、これまでで一番私を可愛がってくれている先輩だ。


撮影こそしないものの、古谷さんは結婚もしていて子供もいるのに、いつも笑顔で働いて、明らかに私より忙しい生活を送っているのに、私に優しくしてくれる。


私が悪いときだって、私の味方をしてくれる。


不思議で、不思議でたまらなかった。



きっとこの恩は、返しても返しきれない。



「だって雪ちゃん、お店入ってきたときからいつも同期の誰より一番遅くまで残って練習するような子だったじゃない?」


「そんなの私不器用だから当たり前…」


「私も不器用だったの。でも練習嫌いで、雪ちゃんみたいに頑張れなかった」


「………」


「頑張る雪ちゃんを見てからなんだよ?私の顧客がぐーっと増えたの。雪ちゃんが頑張るから、私も負けてられないなって、頑張らなくちゃって思ったの」


「っ」



そんな風に言ってもらえるような人間じゃないのに。




「私が産休に入ってるときも一番頑張ってくれてたって、店長から聞いた」


「………」


「これは優しさじゃなくて…私からの恩返しなの」



恩返しをしなくちゃいけないのは、私なのに。





「いつもありがとね、雪ちゃん」




お礼を言いたいのは…私の方なのに。

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