第13話

「おはようございます」



いつものスタジオに入ると、さっそくモデルの待機してるメイク室へ向かった。


なんだか緊張するな…こだわりの強い人だったらどうしよう。

切りすぎちゃったらなんか言われるかも。



初心者のような不安を抱えて、メイク室のドアを開ける。



とりあえず何においても第一印象。

美容師なんだからトーク大事。


それでなんとか乗り切ろう、うん。



「おはようございますー!本日担当させていただきます、春原ゆ…」


「――雪路?」


「…へ?」



自己紹介する前に名前を言われた。


あれ、もしかして知り合い?



「雪路だよね?」





私は……、この声を知っている。






「なんだよ。聞いたことある店の名前だと思ったら雪路の店だったのか」


「…栄人……」


「まじびびったわ」




――体が震えた。


目の前には、4年前に別れたはずの恋人がいた。



え、なに。

なんで栄人がここに。


今の状況を処理しきれない。



「4年ぶりだな」



その声で言われた数々の言葉が脳内を駆け巡る。


言われて嬉しかった言葉も、傷ついた言葉も。


果てしなく、巡る。




4年も前のことなのに。


私はまだ、この人の声を忘れていなかったんだ。




「じゃあちゃちゃっとかっこよくしてよ」


「は…?」


「昔俺を練習台にしたカット下手だったもんな。4年でどんだけ上手くなったか、俺が見てやるよ」


「何言って…」



ちょっと待ってよ。

こんなの無理だって。


怒りのせいなのか、怯えているからなのか。


手の震えが止まらない。

体の震えも止まらない。



どうしよう私、動けない。



「何ぼーっとしてんの」


「え」


「まさか動揺してる?」


「………」


「大丈夫だって。俺たち友達だろ」



そう言って肩に乗せられた手が怖くて仕方がなかった。



その声で、その手で他の女を抱いてるあなたを、私は見たんだよ…?




「雪路」



やめてよ。



その声で名前を呼ばないで。


その手で私に触らないで。



なんで私、こいつのことなんて好きだったんだろう。



最低なのに、大っ嫌いなのに、なんで私…何も言い返せないの。

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