第12話

――彼方が隣からいなくなって、今の私がこうして頑張れている理由はなんだろう。



応援してくれる家族がいる。友達がいる。


私のカットが好きだと、遠くから店まで足を運んでくれるお客様もいる。



きっと4年前より、私はずっとずっと満たされている。




…初めて彼方と撮影が一緒になったときは嬉しかった。


夢だったから。



大好きな撮影をずっと一緒にいた彼方とやれて、初めて私は美容師を続けてきてよかったと思えた。


今までの苦労全部が報われたような気がした。



きっとこのすべてを失くした時、私は本当に空っぽになってしまうんだろう。






だから、もう欲張らない。





離れていく彼方を追いたくない。



追ってしまえばまたなにかを失ってしまうような気がするから。





“愛なんて、信じない”





もう傷つきたくないから。


あの頃みたいに空っぽになりたくないから。




だから来るものは全部受け止めて、去るものは全部追いかけない。




それが自分を守る方法だって、気づいたから。





―――――――……





「はー…」


「どうしたー雪ちゃん、元気ないね」


「いやそれが午後の撮影。久々にメンズなんですよね」


「あらあら。雪ちゃんメンズ苦手だもんね~」



私が撮影に行く準備をしていると、古谷さんが声をかけてきた。

どうやら少しの空き時間にバックルームにご飯を食べにきたみたいだ。



「その人がどんな人かわかれば前以てスタイル考えられるんですけどモデルの事務所から担当する予定だったモデルが体調崩したから他のモデルの都合つけて連れて行くって今朝連絡が来て」


「えーじゃあ誰が来るかわからないの?どうするー?ちょー有名人きちゃったら」


「いやいやそんなわけないじゃないですか」



あまり乗り気のしない撮影に、古谷さんは口いっぱいにパンをつめて私に手を振って送り出してくれた。



スタイリストになる前もメンズのカットの試験は本当に苦労した。

簡単そうにみえて奥深いのがメンズのスタイルだったりするのだ。

意外と女子よりこだわりがあるメンズも多い。



それに、今日の撮影に乗り気がしないのは多分カメラマンが彼方じゃないから。



駄目だしがないのは嬉しいけど、こういう苦手なメンズこそ駄目だしをしてほしかったりするのだ。


彼方は言い方こそ厳しいものの、その指摘はいつだって適確だった。



だからこそ彼方は、あの若さであそこまで辿りつけたのだ。




彼方には私と違って、才能があった。

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