第23話

少し前までは小さな幸せを探すことに必死だった。


でも気づいたら、私はたくさんの幸せに囲まれていた。



気づけてないだけで、すぐそばにあった。



生徒の気持ちを、先輩方の思いを、千幸さんの優しさを私は今ようやくこうして心で受け止めることができるようになったよ。



幸せに繋げて生きることができるようになったよ。




「咲の得意料理って何?」


「一応和食全般…肉じゃがとか」


「うわ完全に男の胃袋掴みにかかってるな」


「先輩うるさいです本当」



料理を作る私を先輩と千幸さんがカウンターに座って見ながら、時々ちょっかいをいれてくる。



この感じがなんだか家族みたいで楽しい。


こんな風にみんなの前でご飯を作ることなんて本当に久しぶりだ。




「お待たせしました」


「うわ、めっちゃ美味そう」


「いい匂いするー」



短時間で作ったメニューは切り干し大根の入った肉じゃがに夏野菜の和え物、里芋の味噌汁、鳥の天ぷら。



普段忙しくて偏りがちな2人のことを思って作った料理は、ボリュームと栄養バランスを考えたものになった。


こういうのは栄養士の資格を持っているプライドからくるのだろうか。



「「いただきます!」」



土鍋で炊いたご飯をよそってだすと、相当お腹が空いていたのか2人はすぐに料理に手を伸ばして大きな一口を頬張った。




「この味噌汁うま…なんか隠し味いれてる?」


「隠し味っていうか生姜をちょっとだけ」


「すげー美味しい」




何度も美味しいを連呼する先輩とは反対に、千幸さんはそれぞれを一口ずつ食べてその場で固まっていた。



「あ、あの、千幸さん…?」


「………」


「あの…口に合わなかったら無理して食べなくても…」


「いやごめ…そうじゃなくて…」


「…?」


「あーやばいって本当…」


「え、え?」



そう言うと、千幸さんは両手で顔を覆ってしまった。


え、何、どんだけ口に合わなかったの。

私なんか変なものいれたっけ?

でも先輩は美味しいって食べてくれてるし…。



「うますぎ…」


「え」


「なんか悔しい」



――呟くようにそう言った千幸さんは、そのあと箸をおくことなく料理1つ1つかみ締めるように食べてくれた。



美味しいと何度も何度も言ってくれる2人の笑顔が、泣きたくなるくらい嬉しかった。

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