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この再会のあと、珠子の依頼で呉へ出向くことになった。壇ノ浦に沈む神剣を引き揚げるのに協力して欲しいというのである。
本来であれば、近隣の《神木の巫女》が行うべき仕事だが、該当の《柳》の《神木の巫女》は、柳家の猛烈な反対で参加できなかったのだ。
『神剣は、九曜預かりの物。なぜ《神木十家》が危険を犯す必然があるのですか。九曜内部で解決するべき案件の筈』
と、一歩も譲らなかったのである。
出来損ないと陰口を言われた自分が、《神木の巫女》としての役目を果たす。それは静音には嬉しいことだった。そして何より、任務遂行までの間、省吾と一緒に過ごせたことが嬉しかった。
神剣のサルベージが、その後の二人の運命に影を落とすとは、このときの二人が知るよしもなかった。
神剣の発掘成功は、九曜家のみならず、《神木十家》に衝撃を走らせた。
だから今回のサルベージも、失われたレプリカの一つが発掘されるだけだと各方面は考えていたのだ。
しかしながら、今回発掘されたのは、《叢雲》のオリジナル。数あるレプリカの元となった神剣中の神剣。
神剣の役割の一つには、《神木の巫女》の《潔斎》というものがある。
神剣は、《ただの人であった女性》を、世俗から切り離して《神木の巫女》にする力がある、とされている。目に見えぬ悪縁を切る刃であると。
そうして世俗から切り離すことで、《神木の巫女》は障り無く《神木の巫女》としての勤めに没頭できるようになる。昔は、長命の《神木の巫女》も思いがけない病などで倒れることが、稀ではあるが幾度かあった。その場合、普通の生活をしていた各々の家の女性を《神木の巫女》として立てたのだ。無論、《神木の巫女》とされる女性は、世俗に暮らしたが故に未練がある。その未練――記憶を、オリジナルの神剣には消す力がある。
未練を持ち、勤めに支障を出している《神木の巫女》。それは柊静音に他ならならない。
神剣の効果に縋らぬ方はないと、柊家は言い出したのは、無理なからぬ話だった。
そして、神剣は使い手を選ぶ。
己を振るう人間を、神剣は選ぶのだ。神剣に選ばれた人間のみが、神剣を鞘から抜くことができる。
神剣は、己の主に、叶省吾を選んだ。海中から引き揚げられ、最初に神剣を手にした強力な《能力者》。それが叶省吾だったが故に。
神剣の発見によって、《神木の巫女》柊静音は、人として暮らした記憶のすべてを切り離し、《神木の巫女》としての霊力を取り戻すであろう、そう柊家は判断した。そして、九曜にオリジナルの神剣による《継承の儀》を要求したのだ。
省吾と静音は。花の咲かぬ恋すらも許されなくなったのだ。
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