第6話 再会と、再開(最終話)

「朝比奈くんには、申し訳ないことをしてしまったわ」

言ってから、ずっとこちらを楽しそうに見ている男を睨みつける。

まさか、こんなタイミングで再会するとは思わないもの。もう一度会える保証だってなかったし。

「ホントは入学式の日に気づいたんだけど、別にこっちから接触しなくても、つばきなら気づくかなーと思ったんだよね。」

「同じ校舎にいればいつかは気づくわよ。それまで待っていれば良かったのに。朝比奈くんが可哀想だわ。」

そう、わたくしがさっきからツキに対して怒っているのはこれが原因。再会できたのはうれしいけれど、タイミングが悪すぎるわ。

と、わたくしがずっと怒った様子でいると、ツキの方も少し険しい雰囲気になった。

「さっきからつばきばっかり怒っているけど、僕にだって文句くらい言わせて。なんで、告白なんかされてたの」

「え?」

なぜ怒られているのかわからずにいると、更に顔が険しくなる。

「つばきとずっと一緒にいたのは僕なのに。なんで、他の人に告白されて、しかも友達に、なんて言ってたの」

あら。怒っているというより、これは・・拗ねている・・?

「・・別に、告白を受けるつもりはなかったわ。だって、あなたがいるんだもの。」

まっすぐに、目を見て伝えてあげると、ツキが僅かにその目を見開いた。

ああ、この目だわ。

わたくしが大好きだった、サファイアのような目。

何よりも青く、深く、美しい目。

「・・あなたが、わたくしの心に居座るせいだわ。わたくし、ずっとあなたのことが大好きだったから、今まで彼氏だってできたことないのよ?」

まったくこの人は、どう責任を取ってくれるつもりなのかしら。


「・・今までも、これからも。ずっとずっと大好きよ、ツキ」


にこり、と微笑むと、ツキは顔を僅かに赤くした。

あら、昔のわたくしみたいな色だわ。

「ねえ・・・・なんで、先に言うの?」

手で口元を覆いながら非難がましい目でこちらを見るツキ。

そんな目をされても困るわ。

だって、ずっと想っていたのだもの。

でも良かった。ツキも、同じ気持ちだったみたい。

・・すこしくらい、からかっても許されるわよね?

「ねえ。ツキも、わたくしと同じ?」

そう問いかけてやれば、彼の顔は更に赤くなった。

けれど、わたくしの耳元まで顔を近づけると、


「これからも、ずっと好きだよ」


そう、囁いた。

今度はわたくしのほうが紅くなってしまって、ツキは勝ち誇った顔で笑っている。

・・このまま沈黙だなんて心臓が持たないわ。

「一応、説明するけれど。別に、朝比奈くんの告白を受けようと思っていたわけではないわ。ただ、新しく友達を作ったほうが良いのかなと思っただけよ。今のわたくし、友達と呼べる人が二人しかいないの」

そこまで言って、忘れていたことに気づいた。

「あっ、カフェ!」

わたくしはそう叫ぶと、ツキに早口で説明する。

「ごめんなさい、ツキ!これから友達と先約があるの。」

申し訳無さ気な顔のわたくしを見て、何かを考えた彼は、

「僕も行って良い?」

と聞いた。

「え?」

「つばきの友達なんでしょ?僕も会ってみたい。」

わたくしは別に構わないけれど・・二人はどう思うかしら

「別に良いけれど・・二人が嫌がったら帰ってね?」

「わかってるよ」

了承すると、嬉しそうな笑みが返ってきた。

「二人には、下駄箱の辺りで待ってもらっているの。早く行きましょう。」

なんだか幼い笑みにドキッとしてしまって、照れ隠しに彼の袖を引いた。



下駄箱には、鈴と甘原以外の人影はなかった。

「ごめんなさい、遅くなってしまったわ」

わたくしの声に、二人がぱっと顔を上げる。そして、四つの目が大きく見開かれた。

「つ、つばき!その男の子って・・」

鈴が表情豊かなのはいつものことだけれど、まさか甘原までこんなに驚くなんて。

「・・お前なら、絶対に断ると思ってた」

ああ、そういうこと。二人はツキが手紙の主だと思っているのね。

「告白してくれたのは、中学が一緒だった朝比奈くんよ。もちろん、お断りしたけれど。こっちの彼は・・」

「はじめまして。五組の氷室ミツキです。つばきの彼氏です。」

・・ああ。ツキは、これを言うために着いてきたのね。

わたくしが彼の意図を理解した直後。

「・・えええええぇぇええええ!!!!」

「はぁ!?」

鈴の悲鳴と甘原の裏返った声が響いた。

「二人共、驚きすぎだわ。・・別に良いでしょう。わたくしに彼氏ができても。」

「つばき、今までどんな人生送っていればこんなに驚かれるの?」

「わたくしに聞かないで。」

ツキは、わたくしの方をどこか憐れむように見てくる。別にいいでしょう、彼氏がいた事などなくても。あなたが会いに来なかったのが悪いわ。

「驚いている二人は放っておいて、一応紹介しておくわ。今のわたくしの幼馴染の粟村鈴と甘原りん。どちらも三組で、わたくしとは小学校の頃からの付き合いよ。」

「幼馴染・・ねえ、つばき」

「なに?」

ジッ・・と二人を観察した後、ツキはこちらに顔を寄せると、

「この二人、付き合ってるの?」

と声を潜めて聞いてきた。

「付き合っていないけれど」

「なるほど。両片思いってやつだね。」

あら、初対面のツキにもバレてるわ。なんでこの二人は付き合わないのかしら。

「ほら、顔も合わせたのだし、そろそろカフェに行きましょう。時間なくなるわよ。」

「あっ、うん!」

元気な鈴の返事。やっと驚きから開放されたみたい。甘原は・・ああ、まだ信じられないって顔してるわ。

「甘原、いつまでその顔をしているつもりなの。・・二人共。ツキも一緒に行ってもいいかしら」

「もちろん!二人の話聞きたい!」

「・・ああ」

あ、やっと甘原が復活した。いくらなんでも驚きすぎだわ。失礼ね。

靴を履き替えて歩き始めると、隣にツキが並んで、自然に手を取ってきた。

人形だった頃は体が動かなかったけれど、今では好きなように体を動かすことができるから、こういうふうに触れ合うこともできる。・・後ろで騒いでいる鈴は、放っておきましょう。

・・ああ、幸せだわ。

「ツキ」

そっと呼んだ声が届いて、彼と目が合う。

「今回もずっと、死ぬまでずっと、一緒にいましょうね。」

瞳の奥に僅かな不安を見せたわたくしに、ツキは安心させるかのように柔らかく微笑んだ。

「当たり前。もう、つばきと絶対に離れない。それこそ、死ぬまでね。」


高校生にしてはどこか愛情の歪んでいるわたくしたち。


でも、幸せだわ。





これで一旦、ツキとツバキの物語は終わりとなります。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

今後は、このあとの話をのんびりと書いていくつもりですので、そちらもよろしくお願いします。

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ツキツバキ 白波桜 @ShiranamiSakura77

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