第3話 あなたと同じ名前の星
教室は三階の端。コの字型の校舎の三階には、一年生の教室六個が並んでいる。四〜六組はわたくし達の向かい側。
「あら、二人はまた隣同士なのね。」
粟村と、甘原。出席番号の順に並んだ席で、二人はよく隣になっていた。わたくしだけ、いつも仲間外れなのよね。今回も、一番前の席の二人に対して、わたくしは一番うしろの端。教室のドアがお隣さん。
「良かったわね、鈴。甘原も嬉しそう。」
「「〜!」」
わたくしの一言に、また顔を赤くする二人。どうして気づかないのか、本当に不思議だわ。
「ほら、体育館行くわよ」
赤くなった二人を伴って、体育館に足を向ける。
・・なんだか、周りの視線がすごいわ。
やっぱり甘原と鈴って、きれいな顔をしているものね。わたくしも珍しい色をもっているし。
「甘原、鈴をあまり周りの視線にさらさないでね。変な虫がついてしまっては困るわ。あなたのサポートに回るのも大変だし。」
「ああ」
静かに言葉を交わすわたくしたちをみて、鈴は目をキョロキョロとさせている。
「つばきとりんってたまによくわかんない話するよね」
・・鈴、あなたって本当に天然ね。
夜。
いつもどおりバルコニーにでて月を眺める。前の自分を思い出してからのわたくしは、大切だった彼と同じ名前をもつ星を、いつも見るようにしていた。
なんだか、この時だけは、自分の今から目を逸らし、ツキを想っても良いような気がするから。
それに、いつの間にか習慣になっていた天体観測が今では趣味になってしまって。
結局、今のわたくしも、ツキによる影響を受けているのよね。責任を取ってほしいものだわ。
心のなかで一方的にツキを想って文句を言う。
彼からしたらいい迷惑でしょうけど、いつまで経ってもわたくしの眼の前に姿を表さないのが悪いわ。
「ねえ、ツキ。わたくし、もう高校生になってしまったわ。幼馴染もいて、毎日楽しく過ごさせてもらっているの。今日が入学式だったのだけれど、鈴ったら、人の視線をいやというほど集めてしまって。それに比例して甘原は不機嫌になるし、わたくしは好奇の目にさらされるし。早くあなたに、二人のことを紹介したいわ。あなたの話もたくさん聞きたい。16年間もあなたに会えていないのよ?前はずっと一緒にいたのにね。・・あなた、今どこにいるの。待っていてあげるから、はやく、会いに来てよ・・」
独り言のように呟いた声は、静かに夜に溶けていく。
「・・おやすみ、月。」
彼の代わりに、彼と同じ名前の星に挨拶をして自室に戻った。
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