音速制御装置

後藤いつき

音速制御装置

博士が作ったのは音速を緩やかにする装置。この装置を伝うと音は勢いを落とし、壁にべちゃっとぶつかるとずるずると落下して動かなくなった。その音をつまむとぐったりとしていて、とても気の毒に見えた。

何人かの信徒が博士を批判したが、結局博士はなにかえらい賞をえらい人からもらった。

ヘヴィメタルをワルツにしたい。博士の夢だったのだという。しかし博士はそれを、少年時代を除いて、誰にも打ち明けることはなかった。そんなものひとにわかってもらえるわけがないと、あのとき学習したのである。

でも依然、装置を介そうが介すまいが、ヘヴィメタルはヘヴィメタル、ワルツはワルツであった。

そんなことは三十年前からわかっていると博士は強がった。では何故とわたしは問う。

けじめというか、責任というか、博士は言葉を探す、いやちがうな、単につくると決めたからだ。

博士の言葉はピンポン玉のように飛んで、わたしの額に当たった。いい音がした。

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音速制御装置 後藤いつき @gotoitsuki

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