第5話

 ようやく一息いた所で、かいこういちばん、耳をつんく様な大きな声が、


若い番頭・鼓一郎:「御主人、もう止めてください!」


 自分には声が掛からなかったものの、うわさは聞いていたいちろう。仕事で鍛えた足腰に、すっと整ったつらがまえ、誰もがれる男でございました。


 く言う主人もそのはございませんでしたが、素直で快活な気質にれ込み目をかけて、でっぞうの頃からばんとうにまで育て上げたいつざい。まるで自分の子供の様なぞうっ子に、恥ずべきじょうの始末は任せられる訳がないものだから、


赤城屋主人:「何だい、呼んでもいないお前さんの出る幕じゃございませんよ。というか、お前さんが気にするにはもったいい様な、大した用事ではないのですよ」


 と、ややあせった様子でございました。


 しかし、ところがどっこい、


若い番頭・鼓一郎:「でも、私は本当にかみさんを愛しているのです!」


 と、ばんとうさんがまさかの告白。これにはびっくりぎょうてん。皆の目が丸くなってしまいました。


赤城屋主人:「やい、めぇ!こんなおおどしが良いって言うんだい⁉︎」


 あかしゅじん、狙い通りだというのにだかしゃくぜんとしない。やはり、長年連れ添った女房に、いや、手塩にかけて育てたまなに、いずれにしましても、男のしっなどというものは犬も食わない訳でございまして、


女将:「何だと、このぱらじじい!」


 と、かみももう頭からが出る程にカンカンで、全く調子が良いのはばんとういちろうだけでございまして、するりとかみを太い腕で抱き止めますと、


女将:「あらん、いやだ。よく見たらにがばしった良い男じゃない。しかも、見る目まであるだなんて」


 と、まあ、やや強引な力強きわかかみさんはもうメロメロ。元々気にしていた腹をさすりながら、主人はポカンと開いた口がふさがりません。


女将:「やい、ふるだぬき!あんたなんかもう用済みだよ!」


 かんだかく叫ぶかみに、こいつは困った。最近はばんとういちろうに全て任せきりで、遊びほうけていたのがたたったようで、客のまわりが分からないから、再び商売を始めようにも、どうにも首が回らない。よくよく考えてみれば、自分も同じばんとう上がり。婿むこようだというものですから、くるりと立場も入れ替わり、下手をすればばんとうどころかでっぞうからのやり直し。よわい五十の小僧などというものは誰も見たくはない訳でございまして、どうわたくし、聞いた事がございません。えんを切られたあかつきにはとうに迷うのは明白というもの。主人はすっかり参ってしまいました。


 くだりはんで、店を干されて、いちもんあわあきんど、女房しち入れ、いちもん


 女房と参った思い出が、にっこり微笑むたいへいに、


赤城屋主人:「こんな事なら、金なんか一文も持たなければよかった」

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神仏頼み 小林 広平 @meltingpot0919

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